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ハートフルクリスマスⅡ・1

 クリスマスまであと1週間。  今日は休日出勤で、朝からホテルオーヤマ内の実店舗内で働いていた。 「おーい、瑞樹ちゃん、今日は忙しいみたいだな。俺も助っ人に来たぜ」 「菅野! 助かるよ。朝からずっと立ちっぱなしなんだ。今日は華やかに着飾った人が多くて。一体何のパーティーだろう?」 「あぁ地下のボールルームで社交ダンスの大きなクリスマスパーティーがあるみたいだぜ」 「社交ダンス? 僕には縁がない世界だな」 「俺もさ!」  そんな話をしていると、ボールルームから緊急呼び出しがかかった。  何事だろう? 「瑞樹ちゃん~ 俺、お客様のアレンジメントのオーダー、受けたばかり!」 「大丈夫だよ。僕が行くよ」    地下にエスカレーターで降りると、パーティーの受付付近に人集りが出来ていた。   「あの、加々美花壇の者ですが、どうされました?」 「すみません。この子がスタンド花を倒してしまったんです。これ、急いで元に戻せますか」  ワイン色の絨毯に、赤い薔薇と白い百合が散らばっていた。  そこに蹲るように5歳くらいの男の子がしくしくと泣いている。  子供の泣き顔は苦手で、ギュッと胸が切なくなるよ。  この子もパーティーのお客様なのかな?  小さな紳士のように蝶ネクタイをつけてベストを着ている。 「大丈夫だよ。お兄ちゃんが直してあげるからね」 「ほんと? ママにしかられちゃう。どうしよう……ぐすっ」 「ママはどこにいるの?」 「いま、いそがしいの」    ホテルのスタッフから、この坊やのご両親はプロダンサーで、今日のダンスパーティーに参加していると教えてもらった。  出番が近いため、少し母親が目を離した隙に起きたらしい。  なるほど、出番前のご両親を動揺させたくないな。でも薔薇も白薔薇も店舗在庫がもう少なく、これだけの新しい花材を用意する余裕も時間もない。  ならば修復のみだ。  僕は手早く散らばった花を拾い集め、花と心の中で対話した。 (どこか痛いところはない?) (そうか、少し打っただけで、無事なんだね)  そっと痛んだ部分を隠すように向きを変えて生け直してあげると、男の子は目をキラキラと輝かせた。  子供の好奇心に満ちた瞳って可愛いな。なんだか少し前の芽生くんみたいだ。   「お、お兄ちゃん、まほうつかいさんなの?」 「くすっ、ただのお花やさんだよ」 「でも、すごい!」 「ほら、元通りだよ」 「ありがとう!」  男の子が涙を拭いてニコッと笑ってくれたので、僕も安堵した。  パーティーに悲しい涙は似合わないからね。 「お兄ちゃん、あれ、ぼくのパパとママだよ。見て!」  照明に照らされて、男女のカップルが情熱的なタンゴを踊っていた。カルメンの曲は聴いたことがある。なんとも強烈な色気と情熱が迸っていて、見ている僕までドキドキしてしまった。 「わぁ、素敵だね」 「あのね……お花きれいで、ママにあげたくて、とろうとしたらたおしちゃったの」 「そうか、そうだったんだね」  小さな子供らしい発想だね。 「このお花さんたちはね、みんなと一緒だからニコニコなんだよ」 「ごめんね。さみしいおもいさせちゃったし、いたかったよね」 「うんうん、分かれば大丈夫だよ。じゃあお兄ちゃんがいいこと教えてあげるよ」 「なあに?」 「ママが一番嬉しいお花の在り処を教えてあげようか」 「うん!」  僕は男の子の頬をそっと擦って教えたげた。 「君の笑顔だよ」 「それでいいの? じゃあ、とびっきりのニコニコをするよ」 「うんうん、ママも喜ぶよ」  子供の笑顔に勝るものはないからね。 「ママとパパのおどりみてくれた?」 「綺麗だね」 「うん! パパもかっこいいんだよ」 「あんな風に踊れたらどんな気分なのかな?」  そんなことを呟くと、グイグイと手を引っ張られた。 「何かな?」 「お兄ちゃんにもおどれるよ」 「えぇ? 僕には無理だよ。未経験だし」 「いちばんかんたんなルンバのステップをおしえてあげる! ほら、こうだよ。わん、つー、すりー、ふぉー」 「ええっ?」 「ぼくのまねをしてね」  見様見真似で、僕は小さな男の子の会場の端っこで踊ってみた。 「じょうず! じょうず!」    可愛い王子さまにエスコートされているようで、微笑ましかった。  帰宅後、小さな男の子と社交ダンスを踊った話を宗吾さんにすると、猛烈に羨ましがられた。 「いいな! オレもその子になりたい!」 「え? そこですか」 「瑞樹ぃ~ 俺とも踊ってくれ」 「くすっ、いいですよ」  宗吾さんは小さな男の子にまで嫉妬しているのかな?  僕は、それが嬉しかったりする。  これって重症かな?  芽生くんは子供部屋で今日は眠っているので、寝室には二人きりだ。   「じゃあ僕と向かいあって立って下さい。いいですか、足の動きを良く見て真似して下さいね」 「なるほど! せっかくだからベッドの中でしようぜ」 「ええっ?」    手を引かれてベッドに寝かされると、宗吾さんがすぐに覆い被さってくる。  あれ? でも……これっていつものパターンでは? 「あ、あの? ダンスは?」 「するよ。社交ダンスは確か手と手を繋いで腰をホールドして……と」 「あっ……」 「こんな感じか」 「やっ……」  腰を摺り合わせるように揺さぶられて、ヘンな声が漏れてしまった。 「そ、宗吾さん、そうじゃなくて……」 「じゃ、こうか」 「あぁっ!」    今度は突き上げられて、布越しに宗吾さんの高まりがダイレクトに感じられ真っ赤になってしまった。  いつの間に、そんなになって。 「それ……ダメです」 「どうしてた?」 「……か……感じちゃう」 「素直でよし! ははっ瑞樹と俺は社交ダンスは無理そうだな。すぐに欲情してしまうもんなぁ」 「も、もう……ふ……普通に抱いて下さい」 「喜んで! ん? 今日の君の身体からは薔薇と百合の香りがするよ」 「クリスマスが近いので、特別です」  宗吾さんが僕の首元に顔を埋める。  深紅の薔薇と純白の白百合。  それは、今日僕が触れた花たちだ。 「特別ないい香りなのか」 「はい、クリスマスらしい華やかな花でした」 「あぁそうか。クリスマスまであと6日か。よし! 今日から毎晩君を抱くぞ」 「えっ! 毎晩スルなんて……僕……耐えられるかな」 (興味はあるけれども、体力的に流石に無理な気が)  困惑して宗吾さんを見上げると明るく笑われた。 「ははっ、ただ抱きしめるって意味だよ、君はいつも煩悩の塊で可愛いなぁ」 「も、もう!」(ぼっ煩悩の塊だなんて初めて言われた! それにいつも紛らわしいのですよ。でも宗吾さんと触れ合うのは大好きだ)  僕は宗吾さんの首元に手を回して囁いた。 「毎晩、抱きしめて下さい」 「あぁ、そうするさ!」 「僕からも抱きしめます」 「それだけ? カルメンみたいに情熱的になってもいいんだぞ」  ホテルで見た官能的なダンスを思い出すと、胸が高鳴った。 「んっ……今日は……少し激しく抱いても……いいですよ」 「瑞樹は俺に甘すぎで最高だ」 「宗吾さんだから、特別なんです。あっ……」  首筋を舌で辿られて声が震える。 「ここ、弱いよな。気持ちいいだろう?」 「んっ……」  今宵も甘い甘い夜になりそうだ。    薔薇のように情熱的に、百合のように清らかに  僕は宗吾さんに抱かれたい。 **** 「いっくん、ようせいしゃんになる!」 「は?」  クリスマスまであと6日。  いっくんにサンタさんへのお願いを聞いたら、不思議な返事が返ってきた。  菫さんと顔を見合わせて、困惑してしまった。 「ええっと、いっくん、サンタさんには、欲しいモノをお強請りするんだよ」 「うん! だからようせいしゃんになるー!」 「妖精が欲しいんじゃなくて、いっくんが妖精になるの?」 「うん! そだよ」 「そ、そっか~」  菫さんが真顔で聞くが、いっくんは譲らない。  いやいや、俺にとってはどっちも超難問だ。  可愛いおもちゃや絵本を想定していたのに、どーすんだ! 「そうだよ。パパぁ、なれるよねぇ?」

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