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ハートフルクリスマスⅡ・2
しんしんと白い雪が降り積もる中、俺は一歩また一歩と雪を踏みしめログハウスへと歩き続けた。
肩には大きな木を担いでいるので足取りは重たいが、心は軽やかだ。
ふぅと息を吐き見上げたログハウスの煙突からは、モクモクと白い煙が上がっていた。
「暖かそうだな」
思わず目を細めて、独り言を言ってしまった。
それほどまでに、暖かい我が家に戻れることに喜びを感じていた。
あ、俺……今『我が家』と?
ここは大樹さんの仕事場だったので、ずっと間借りさせてもらっている認識だったのに。
いいのですか、大樹さん。
ここを俺の家にしても?
白い世界に問いかけると、返事が聞こえた気がした。
(熊田、もうお前の家だよ! 遠慮なく過ごせ、幸せになれよ!)
ログハウスの扉は、深紅に塗り直したばかりだ。
ウォームレッドと色見本には書いてあったな。
冬の赤はいい。
白い雪の中でも目立つし、見るからに暖かそうだ。
「ただいま」
「お帰りなさい!」
「さっちゃんにお土産だ」
「まぁモミの木?」
「いや、似たような常緑樹を見つけてな。日本のモミの木は寒さに弱く北海道では自生しないんだ」
「そうだったわね」
モミの樹がクリスマスツリーに選ばれたのは、通年、葉が常緑で枯れずに瑞々しいグリーンを保っているからだ。
常緑樹には神様の愛が永遠に続く象徴という意味もある。
「常緑樹はいいな。樹と言えば、広樹、瑞樹、そして潤いを与える水を意味する潤。さっちゃんの息子の名前は最高だ」
「勇大さんの名前も力強くて大好きよ。外は冷えたでしょう。暖かいものを入れるわね」
「ありがとう」
ここはさっちゃんと出逢うまでは、外と同じ凍てついた空間だった。大樹さんが残した物が未練の塊にも見えて、17年間カーテンを閉めて冬眠するかのように過ごした場所だ。
だが今は違う。
どの部屋も綺麗に掃除され、朝がくればカーテンを開けて換気をする。
四季を感じる、風通しのよい家になった。
今は、暖炉にオレンジ色の炎が揺れて、部屋中がぬくもりで満ちている。
「私、こんな生活に憧れていたの。若い頃は編み物が趣味で」
「クッションカバー、大量生産したな」
「ふふ、赤と緑は我が家に……広樹には青、瑞樹は白、潤にはオレンジ色よ」
「カラフルだな。きっと喜ぶよ」
「もうラッピングしたのよ。明日には発送しないと。この吹雪じゃ時間がかかりそうよ」
「了解。俺が出してくるよ」
床にはラッピングされたプレゼントが積まれていた。
こんなに暖かい冬はいつぶりだろう。
温かい紅茶に甘いハチミツをたらし、薄くスライスしたシュトーレンでティータイム。
暖炉の上の壁には、大小の写真立てを飾った。
潤の結婚式、広樹家族、みーくんの家族、俺とさっちゃんの結婚式の写真も恥ずかしながら飾らせてもらった。
そして暖炉の上の小さな写真立てには、いっくんと芽生坊の孫の写真も。
「賑やかになったな。さっちゃんと二人暮らしなのに大勢と暮らしているようだな」
「私もそう思うわ」
モミの木に見立てたツリーに、二人で飾り付けをした。
大小の星や雪のような白い吹きガラスのオーナメント、水色の球体。
宗吾くんが気を利かせて送ってくれたものだ。
彼はイベントで使ったものを我が家によく融通してくれるので助かっている。
「これは『願いの樹』みたいよ」
「あぁ、家族の幸せを願っているようだ」
大沼から愛を贈ろう。
函館、軽井沢、東京にいる息子たちへ。
「お兄ちゃん、あのね、サンタさんにおねがいをかいたんだ」
「あ、そうか。そろそろ出さないとね」
「うん! 今年はまよっちゃったんだ。おそくなったけど、間に合うかなぁ」
芽生くんが心配そうに見上げるので、僕はにっこり微笑んで安心させてあげた。
「お急ぎ便で出しておくね」
「わぁ、お兄ちゃん、ありがとう!」
芽生くんからのサンタクロースへの手紙を預かって出勤した。
クリスマスまであと5日。
芽生くんが毎年楽しみにしているクリスマスが間もなくやってくる。サンタの存在を信じてクリスマスプレゼントを考える姿や、プレゼントを待ち侘びる姿は、夢いっぱいで本当に可愛い。
「芽生、今年は何を書いたのかな? ドキドキするな」
「一昨年は雪でしたよね」
「あぁ、あの日の雪は印象深いな。そんな芽生も、もう2年生だ。今流行のゲームとかかな?」
「去年は野球のボードゲームだったので、今年はいよいよテレビゲームでしょうか。あの……見てもいいですか」
「見ないと用意できないだろう」
「ですよね。勿体ない気もして」
手紙には、驚く内容だった。
「えぇ! そう来るのか」
「雪も難しかったですが、今回のも難問ですね」
「あぁ、ちょっと冷静に考えよう。夜にまた話し合おう!」
「はい!」
確かに難しいな。
でも、これは自然現象には左右されないので、叶えられない夢ではないのかも。
宗吾さんと協力して、なんとか準備したい。
それにしても……クリスマスは大人にとっても特別だ。
小さな子供から夢を託され、大人がサンタクロースになれる魔法の時間だと思うと、俄然楽しくなるよ。
「チーム滝沢! 大人部隊、頑張ろうぜ!」
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「いっくん、どうして妖精になりたいんだ?」
「あのね……いっくんね、サンタさんのおてつだいしゅるの」
お手伝い? しかもサンタの?
「いっくんはまだ小さいから、そんなことしなくてもいいんだぞ」
「でもねぇ、サンタさん、もういっくんがほちかったものくれちゃったからぁ」
いっくんが俺を見上げて、目をうるうるさせている。
あーヤバイ! しんどいくらい可愛いぜ。
「何をもらったんだ?」
いっくんが手をバンザイするので抱き上げてやると、俺の首元に抱きついてきて、可愛い声で教えてくれた。
「パパぁだよ。パパがほちいって、いっぱいおねがいしたの」
「……そうだったのか」
「うん!」
「……クリスマスには、間に合わなかったな」
「ちょっとおくれましゅって書いてあった」
「えぇ!」
菫さんを見ると、苦笑していた。
「だからいっくんね。ずっとずっといい子にしていたんだよ。ぜったいパパがくるって」
「そうだったのか」
「だからいっくんようせいしゃんになる! さんたしゃんのおてつだいしゅるよぅ!」
「お、おう! じゃあサンタさんに手紙を書かないとな」
ヤベ、返事しちまった!
これは絶対に何とかしないと。
こんな時に相談にのってくれるのは……やっぱり瑞樹兄さんだ!
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