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幸せが集う場所 13
明日はいよいよ、『江ノ島の水族館』のメインイベント当日だ。
チョコレート色のあざらしに広告塔になってもらい、バレンタインならではの様々なイベントを繰り広げる予定だ。
それにしても白金のイベントとの掛け持ちで、ここ半月ほど大忙しだ。
休日も返上し勤《いそ》しんできたのを、上司はちゃんと見ていてくれた。
明日のイベントの後、1日オフをもらえるなんて、ありがたい!
明日は潤親子と瑞樹と芽生は、月影寺の宿坊に泊まる予定になっていた。
もちろん俺も一緒に休暇を取りたかったが、仕事のたて込み具合からまず無理だろうと諦めていた。だから猛烈に嬉しい! 休みが決まった途端、俄然元気が出た。
ヘトヘトだったがマンションを見上げると、俺の家に灯りが灯っているのが見え、ますます元気になった。
愛しい人の幸せそうな笑顔。
それは1日の疲れを帳消しにしてくれるものだ。
笑顔はいいぞ。
笑顔の中に幸せが存在するから。
出迎えてくれた瑞樹と話しながら、リビングに向かった。
「芽生の病院どうだった? 今日は連れて行ってくれてありがとう」
「いえ、任せて下さってありがとうございます。芽生くん、頑張りましたよ」
「嫌がらなかったか。超音波検査は苦手だったし」
「……えっと、最初は嫌がりました」
「やっぱりなぁ。手こずらなかったか。我が儘言って君を困らせなかったか」
もしも俺だったら「嫌なもんは嫌だ!」と大騒ぎしそうだ。いや実際に小さい頃、注射嫌いで大騒ぎだったような。これは今となっては封印したい過去だが。
「芽生くん、検査が苦手のようで嫌がりました」
「そ、そうか、やっぱり嫌がったのか」
「でも、どうして嫌か、ちゃんと言えたんです」
「芽生は、じっとしているの苦手だもんな。機具も冷たいしな」
「わぁ、宗吾さんはやっぱり芽生くんのお父さんですね。ちゃんと芽生くんの気持ちが分かっていてスゴいな」
ううう、瑞樹のこういう所がとても好きだ。
優しく寄り添って、俺をさり気なく立ててくれる。
「芽生くん、偉かったんですよ。『いっくんに会う時に調子が悪くなったら大変だから、頑張る』と言ってくれました。僕は……正直これにはうるうるしましたよ」
芽生、成長したんだな。
自分の気持ちを分析し、前向きに捉えられるようになって偉いぞ。
「瑞樹、ありがとう。君に育ててもらっているから、芽生はスクスク真っ直ぐ成長しているよ」
スーツを脱ぎ捨て、傍らに立っていた瑞樹の細腰をグイッと抱き寄せると、目元を染めて恥じらいを見せた。
「ん? もう赤くなったのか」
「そ、宗吾さんがカッコよすぎるからです」
瑞樹ぃ~ ここでそれを言う?
歯止めがきかなくなるぞ!
「そうか? 仕事疲れで、やつれているだろう」
「そこがまたなんとも……色気というか雄々しさが増しているんです」
「そ、そうか。嬉しいぞ」
先日、芽生の退院後ようやく瑞樹と一つになれた。その余韻がまだ残っているので、このまま押し倒して抱きたくなるが……明日は大切なイベントで早朝出ないといけないので、グッと我慢だ。
「イベントが成功したら、ご褒美をくれるか」
「はい……そうしましょう。あ、あの、お風呂に入っている間に、僕、夕食の準備をします」
「悪いな」
「いえ! 謝らないで下さい。お互い様ですよ。僕が忙しい時は宗吾さんが同じことをしてくれますよ」
確かにそうだ。
瑞樹に妻の役、女役をさせつもりは毛頭ない。
俺たちの間には自然なルールが出来ている。
動ける方が動き、出来ることがあれば率先してやる。
「瑞樹、今日もありがとう!」
「どうしたしまして」
可憐なすずらんのような笑顔に癒やされる。
また花の香りがするよ、君から――
優しい花の香りに包まれる。
「宗吾さん、僕……明後日まで無事に休みを取れました。せっかくいっくんと潤が来てくれるし、月影寺でものんびりしたいので……宗吾さんはやっぱり無理そうですか」
「実はだな、俺も明日のイベントが終わったら翌日オフだ!」
「えっ、本当ですか。嬉しいです。じゃあずっと一緒にいられますね」
嬉しそうに瑞樹が俺を抱きしめてくれたので、自然な流れでキスをした。
「ん……んっ」
目を閉じて顎をあげて必死に応えてくれる様子が可愛くて、デレデレだ。
瑞樹みたいな綺麗な子が、俺だけを真っ直ぐに見てくれる。
君のその控えめな優しさも、可愛い恥じらいも大好きだ!
「宗吾さん、明日頑張ってくださいね」
「おぅ!」
きっと何年たっても俺……君にデレデレだ。
芽生の前でもデレデレしているだろうな。
そんな俺たちを芽生が温かく見守ってくれる気がする。
****
翌日……
宗吾さんは、まだ日も明け切らぬうちにイベント会場の水族館へ向かった。
僕たちはゆっくりと準備をして家を出た。
この休みをもぎ取るために、休日を返上して頑張った。だから心置きなく楽しみたい。芽生くんの方は、小学校の開校記念日がちょうどバレンタインデーだったので、翌日1日だけお休みを取った。本当はいけないことかもしれないが、入院を頑張った芽生くんにご褒美の旅行でもあるので、許してもらおう。
「お兄ちゃん、いっくん、まだかな?」
「そうだね。もうそろそろ来るはずだけど……少し遅いね」
「あ、来た! いっくんだ」
潤に抱っこされたいっくんがキョロキョロ見渡して、僕たちを見つけた。
なにやら潤に囁いて、そっと降ろしてもらうと、トコトコ、トコトコと走り出した。
「めーくん! あいたかったー」
「いっくん! 会いたかったよ」
二人の子供がギュッとハグしあう。
可愛い光景に目を細めると、歩み寄ってきた潤も同じ顔をしていた。
あぁ……僕たちは今とても幸せだね。
可愛い天使たちと一緒なのだから。
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