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幸せが集う場所 25

「しゅごい、おおきなおふろ!」  さっきのおへやもひろかったし、おふろにはあざらししゃんがいるし、しゅごい!   ここって、すいじょくかんみたい!  そうだ! あのあざらししゃんは、アザラシマンじゃないよね?  きになる、きになる、きになるよー    めーくんにこわくないかってきかれたけど、だいじょうぶだよ!  だってパパがヘンシンしたあざらししゃんは、せいぎのみかただもん。 「ところで、すいさんとりゅーさん、そんなところで何をしてるの?」 「芽生くん、そ、それはだな……」  え? そこに、すいしゃんとりゅーしゃんもいるの?  いっくん、うーんと、せのびしてみたよ。  わぁ! すいしゃんとりゅーさん、すっぽんぽんだ! 「あざらししゃんとおふろ……いいなぁ、いいなぁ」  そうだ! おもちゃをかしてほしいときにいうことば、こういうんだよね。 「いっくんもいーれーて」  もうがまんできない。  おとなのひとがすっぽんぽんなんだから、いっくんもぬぎぬぎする!  そうしたらめーくんもいっしょにぬぎぬぎしてくれたよ。 「ボクもはいる! すいさんとりゅーさんという大人がいるんだからいいよね。お兄ちゃんもすいさんとりゅーさんの言うことをよく聞いてっていってたもん」 「うんうん、えへへ、めーくん、たのしいね」 「うん、いっくん、さぁはいろう。いちにのさん!」  ドボンってつかったら、りゅーさんが「ぎゃー」っていったよ。  なんで? なんでかな?  りゅーさんがいっくんのほうにあざらししゃんをなげたよ。 「持ってけ、持ってけ! 良い子はそれで遊べ」 「あい! あざらししゃーんかわいい。すいしゃん、ここ、すいぞくかんみたい」  すいしゃん、おかお……りんごさんみたい。  バナナとももしゃんもいるね。  どんぶらこ、どんぶらこ。 「いっくんね、フルーツしゅき!」 「え? そ、そうなの?」 「りゅうさん、このあざらしかってるの?」 「あ、あぁ、だから身体を洗ってあげようと思ってな」  リューくんがスポンジをわたしてくれたので、めーくんといっしょにゴシゴシ、ゴシゴシしたよ。  ゴシゴシ、ペタペタ  いっぱいしたよ~    たのしいね~ ****  角を何度か曲がって、ようやく御朱印受付に、澄ました顔の小坊主くんを見つけた。 「おーい、君に頼みがあって」 「あ!」  オレの顔を見るなり、小坊主くんは近くの和室に飛び込み、白い布団を抱えて戻ってきた。 「これですね!」 「よく分かったな。オレがこれを借りにきたこと」 「顔に書いてありましたので」 「流石月影寺の小坊主さん、素敵だな!」  小坊主くんは照れ臭そうに頬を染めた。 「ええ、駄目、駄目、駄目ですよー いくらあなた様がスカッとカッコよくてもぼ……僕はガテン系よりあんこ系が……」 「はぁ?」 「いえ、いえ、なんでもないです。ところで、あなた様にはとても大きな愛で守られていますね。ですから、幸せになれるし、大切な人を幸せにもできますよ」 「え?」 「あぁ、すみません。つい口が滑ってしまいました。お父さん、もうご安心ください。息子さんもうパパになっていますよ。立派な立派なお父さんのようです」 「え?」  思わず後ろを振り返ってしまった。 「……だ、誰かいたのか」 「いーえ、独り言ですよぅ」  まさかな……  だってオレは会ったこともない。 「……あなた様は直接触れることは叶わなかったでしょうが、お母様のお腹にいる時、お父さんはいつもあなた様のことを考えていましたよ。そのお優しい親心が残っていました」 「なんで? いや……ありがとう。そんな話をしてもらったのは生まれて初めてだ」 「あのあの、そろそろ戻られた方がよろしいかも」 「あ、そうだな。息子を残しているんだ」  大慌てで来た道を戻った。  今度は迷わず真っ直ぐ大広間に戻った。    ところが、いっくんの姿が見えない。  芽生坊の姿も!  ど、どうしよう? 「いっくんー 芽生坊どこだー?」    思わず大声で叫ぶと、兄さんが飛び起きた。 「どうした?」 「兄さん、どうしよう? オレがちゃんと見てなかったから二人が消えちまった! いっくんーどこだ? 芽生坊どこにいる?」  半狂乱で叫ぶと、兄さんが背中に手をあててくれた。 「じゅーん、大丈夫。いっくんはどこにもいかないよ」 「でも、ここにいない。姿が見えない」  可愛いいっくんの姿が見えないだけで、奈落の底に突き落とされた気分だ。 「ここは月影寺だよ。絶対に大丈夫だ」 「兄さん……」 「じゅーん、僕を信じて。いっくんには芽生くんもついているし、この部屋を勝手に出たのには事情があったに違いない」 「事情って?」 「子供の事情は……一番はおトイレかな?」 「あー!」    新幹線の中でのことを思い出した。 「いっくん、おしっこ近いんだ」 「子供は膀胱が小さいから当たり前だよ。よし、トイレに行ってみよう」 「あぁ」  兄さんって、こんなに頼もしかったか。  冷静でカッコいいな!  兄さんは芽生坊を心から信じている。  それがカッコいい。    

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