1427 / 1740

七夕特別番外編『七夕トレイン』

 前置き。  出かけていて、更新が大変遅くなりました。  七夕のスペシャルSSです。(なんとか間に合いました)  潤&いっくんでどうぞ! *****  今日は七夕だ。  いっくんは朝から、今日は七夕だから保育園で短冊に願い事を書くと張り切っていた。  そしてその笹飾りを家に持って帰ってくると言っていた。  小さないっくんが、どのようなあどけない願い事をしたのか気になる。  丁度昼の休憩でテレビを観ていたら、『各地の七夕』という特集で千葉県の保育園の女の子がインタビューを受けていた。 …… 「お願い事はなんて書きましたか」 「アイドルになりたいでしゅ!」 ……  くぅー 可愛いな。  いっくんならアイドルにもモデルにもなれるぞ!  ワクワクした気分で保育園に迎えに行くと、入り口で大泣きしている子がいた。  この声って、まさか!    慌てて駆け寄ると、やっぱりいっくんだった。  どうした? どうした? 「いっくん!」    オレの声に、いっくんが顔を上げる。  つぶらな瞳に涙いっぱい溜めて、飛びついてくる。 「パパぁ~」 「あぁ、良かったです。パパさん……今日、いつきくん……ちょっと……」  保育園の先生から事情を聞くと、いっくんが短冊に願い事を書く時になって突然俯いてしまい、その後「早く書きましょうね」と促したら困った顔になり、その後ワンワン泣いてしまったらしい。  先生がどんなに理由を聞いても、いっくんは泣くばかりで埒が明かなかったと。という理由で、いっくんが握りしめる笹には何も描いていない短冊が1枚ひらひらついていた。 「いっくん、どうした?」 「……パパぁ」  足元にしがみついてはなれないので、そのまま抱き上げてやった。周囲から見たら4歳にもなって甘やかしていると思われるかもしれないが、生まれながらにパパとお別れしたいっくんには、これでも足りないほどだ。  オレと巡りあえて、まだ1年足らず。  まだまだパパっこ1年生さ。 「そろそろ話せそうか」 「ううん。まだでしゅ」 「じゃあ……パパと寄り道しようか」 「うん、しゅる」  このまま連れて帰ると、すみれが心配しそうなので、少し遠回りをした。  この時期は、運が良ければ蛍が見える小川にやってきた。  この前ここを通ったとき蛍を見たから、連れてきてやりたかった。 「いっくんが泣くと心配だよ。パパに話してくれないかな?」  瑞樹兄さんを見習って、優しく優しくいっくんの負担にならないように問いかけた。  いっくんは首を横に振る。  駄目か、参ったな。  何か気分が変わることが、あればいいのに。 「あー パパ、あそこ……なにかひかってる!」  いっくんが突然立って、小川の辺りを指さした。 「あぁ、あれは蛍だよ。綺麗だろう」 「わぁぁ……しゅごいでしゅね」 「いっくんに見せてやりたかったんだ」 「いっくんに?」 「そうだよ。可愛い息子だからな」 「えへへ」  いっくんが可愛く微笑んでくれた。  よかった。やっと笑顔だな。 「パパぁ……あのね、いっくんのおねがいは、もうかなったの。だからね、あんまりしたらよくばりさんだから、かかなかったの。でも、みんないっぱいかいていて、いっくんもちゃんとかいてっていわれて……こまったの」  あー なるほど、そういうことか。  これは泣けてくる。 「いっくんのお願いって?」 「パパとあえますようにだよ! ずっとおいのりしていたの」  いっくんがオレにまたくっついてくる。 「パパぁ、だいしゅき」 「いっくん……もっといろんな夢を持っていいんだよ。パパはずっといっくんの傍にいるから」 「でも、いっくん……」 「サッカーが上手になりますようにとか、絵が上手になりますようにとかはどうだ?」  こんなこと親が助言しては駄目だろうなと思うが、ついつい。 「それはね、いっくんががんばってすることなんだ。いっくん、サッカーのれんしゅう、もっとしたい。おえかきも、いっぱいしてじょうずになるよ」 「そうか、いっくんが、がんばるのか」 「パパがいるからだよ。パパがみてくれるからがんばれるんだ」  ううう、やっぱり泣けてくる。  でもやっぱり白紙の短冊に何か書いて欲しいな。 「そうだ、いっくん、七夕の織り姫と彦星は一年に一度逢えたそうだよ。いっくんにもいつもは会えない人だけど会いたい人はいないかな?」  いっくんはつぶらな瞳を何度か瞬きして、答えてくれた。 「お空のパパにね、いっくん、ちあわせなこと、がんばってることつたえにいきたいなぁ」  それだ! 「それを、いっくんの七夕のお願いにしたらどうだ?」 「うん! してみたい」 「よーし、パパ、鉛筆持っているから書いてみよう」 ……  おそらのぱぱにあいにいって、いっくんのことおしえてあげたいです。 ……  つたなくあどけないが、愛情いっぱいの短冊が出来上がった。  帰宅後、すみれがそれを見てうっと涙ぐんだ。 「潤くんでしょ? 樹に……こんなこと、気付かせてくれたのは」 「亡くなったご主人だって、いっくんの成長を見たいだろう。一年一度くらい会って来ていいよ。いやちゃんと会って欲しい。元気にスクスク生きてるってこと、幸せなこと、知らせて安心して欲しい」 「あぁ……潤くん……あなたのそんなところが大好き! 寛容で謙虚で優しい潤くん」  それは……広樹兄や瑞樹兄を形容する言葉だった。  それをオレにくれるのか。  オレは幸せになった。  その晩、いっくんは『七夕トレイン』に乗って、お空のパパに報告に行った。  夢と希望をのせて――

ともだちにシェアしよう!