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秋色日和 9
「くしゅん」
「瑞樹、寒いのか」
「あ……最近は朝晩冷え込んできましたね」
「おいで」
まだ剥き出しの瑞樹の肩を引き寄せて、俺の身体で包んで暖めてやった。
どんな時も優しい口調で控えめな君を深く抱きしめると、甘えるように身を寄せてくれるのが愛おしい。
こんな時、過去の嫌な記憶が蘇ってしまう。
瑞樹は同じ男なのに、本当に清らかだ。
泣けてくるほと清らかな身体を穢されそうになった過去がある。
もう二度とあんな目に遭わせない。
ふとした瞬間に蘇るあの日の君の無残な姿は、ギュッと目を瞑って闇に葬った。
俺の記憶から早く消し去りたい。
優しく愛おしい記憶だけが残ればいいのにな。
瑞樹の腰をぐいっと引き留めて、どこにも行かないように、誰にも奪われないように、強く、強く抱きしめよう。
「ん……苦しいです、息が……」
「あぁ、ごめん」
「宗吾さん、僕はどこにも行きませんよ」
「そうだな。なのに、ごめん」
瑞樹が身動ぎをし、身体を反転させて仰向けになった。
その後「あっ……」と小さく呟いた。
「どうした? 何か面白いものでも、あったか」
「あれです。壁の虹色のフラッグを見ていたんです。芽生くん、本当に上手に作りましたね」
クローゼットの洋服が虹色に揃ったのに気付いた芽生は、次の日、ご機嫌で虹色の旗を作って、俺たちの寝室に飾り付けてくれた。
……
瑞樹が風呂に入っている間、芽生が相談に来た。
「パパ、あのね、今日はとってもいいことがあったんだ」
「そうか、よかったな」
「あのね、お兄ちゃんが買ってくれたトレーナーのおかげだよ」
「ん?」
「ボクね、運動会のダンス、かぼちゃグループになったよ」
「あれ? おばけグループだから黒い洋服を用意しないとならなかったのに、じゃあもういいのか」
芽生がコクンと頷く。
どうしてグループが変わったのか詳しくは聞かなかったが、きっと良い方向に流れが変わったのだろう。
良い流れってさ、力ずくではなく、自然にやってくるんだよな。
それはきっと日頃の善行の積み重ねの賜だ。
って、俺はすっかり月影寺の翠さんの影響を受けているようだ。
翠さんの目指す世界は、俺たちにとっても憧れの世界だ。
だから定期的に月影寺に集まって教えを請いたい。
あそこはいい。
肩肘張ることなく、男同士の恋を隠さずに、ありのままでいられる場所だ。
翠さんと流さんが張る結界の中にまた入りたい。
「パパ、それでね、おにいちゃんにお礼をしたいの」
「ん? 明日ケーキでも買うか? 瑞樹はいちごのケーキが好きだぞ」
「ううん……えっとね、ボクの力で思い出をプレゼントしたいんだ」
「それはなんだろう?」
子供は時々難しいことを言う。
大人の頭はカチコチだ。
「あのね、パパも手伝ってくれる?」
「もちろんだ」
「虹色のハタをつくって、パパたちのお部屋にかざりたいの」
「いいな! それ」
「折り紙をもってくるよ。パパ、ひもはある?」
「紐、あぁ、たこ糸でいいか」
「タコ?」
「これだ」
キッチンからたこ糸を取ってくると、芽生のOKが出た。
「ナチュラルでいいね!」
「お、おう」
いつの間にか芽生にリードされてんな。
「瑞樹ぃ、ゆっくり入っていいぞ」
脱衣所から声を掛ける。
「あ、はい、ではお言葉に甘えて、今日はゆっくり……」
瑞樹が風呂に入っている間に虹色のフラッグを完成させて、寝室の壁に飾った。
「いいな!」
「うん! いい!」
風呂上がりの瑞樹は目を細めて喜び、芽生を抱きしめ感謝の言葉を伝えていた。
「芽生くん、綺麗な飾りをありがとう」
「お兄ちゃん、ボクこそありがとう。これはねボクからのお礼だよ」
「虹が架かるなんて、最高の贈りものだよ」
「えへへ、じゃあもう寝るね。今日も運動会の練習でクタクタなの」
芽生は子供部屋で、あっという間に眠ってしまった。
俺たちは思いがけない贈り物に興奮して、夜更けすぎまで愛を育んだわけさ。
……
「あぁ、クローゼットの洋服といい、子供の発想はすごいな」
「あの……」
「どうした?」
「虹の飾りを、僕は今日より前に見たことがある気がして……不思議ですよね。記憶にはないのに」
瑞樹が目を擦る。
その時、布団がはらりとめくれて白い胸元が露わになった。
小さな尖りがまだ薔薇の蕾のように色づいて艶めいていた。
一気に煽られる。
「ここに刻まれているのかもな」
その不思議な感じは、瑞樹がとても幼い頃に体験したことなのかもしれない。
きっとここに、心に刻まれているのだろう。
胸元に手をあててそっと撫でてやると、小さな尖りが刺激でキュッと立ち上がった。
こんなに過敏になって……
仰向けの君の身体に跨がって、君の視界を俺で一杯にした。
「宗吾さんだけですよ。僕がこんな姿になれるのは」
こんな時……
俺の不安を打ち消すような、心強い言葉をくれるんだな。
儚げな君に宿る、筋が通った凜々しい部分も好きだ。
「嬉しいよ。求めてもいいか。もう一度」
ちゅっと唇で胸の尖りを啄んでやると、瑞樹が頬を染めてたじろぐ素振りを見せた。
「も、もう、駄目ですよ」
「そうかな? 君も欲しがっているように感じるが」
「あ……っ」
腰を支えていた手を、下へ下へとずらしていく。
腰のラインからヒップ。
形のよい引き締まった双丘の淡い狭間を辿り、俺たちが一つになる場所を指で探ると、まだ濡れていた。
さっきまで俺がいた場所だ。
とても温かく、とても優しく、俺を包み込んでくれる場所だ。
「んんっ」
指でお伺いをたてると、そこはふわっと緩む。
指をそっと挿れてくちゅりと掻き混ぜると、中からとろりと蜜が零れてきた。
「溢れてきたな」
「言わないで下さい。恥ずかしくなります」
そう言いながらも……瑞樹はそっと腰を浮かし俺を受け入れる姿勢になってくれた。
「ありがとう」
「宗吾さん……人って欲深いですね。愛しい人の心と身体の両方が欲しくなるんて。僕は宗吾さんに出逢うまで知りませんでした。こんな僕は……あなただけです」
秋の夜更け
俺たちは再び一つになって、愛を交歓した。
虹色のフラッグが見守る中、幸せな気持ちで満ちていく。
日に日に深まる秋。
これから運動会にハロウィンと、子供のイベント尽くしだ。
だが、その前に暫しの大人の時間を――
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