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HAPPY HOLIDAYS 10

「勇大さん、冷えたでしょう。ココアはいかが」 「暖まりそうだな。ありがとう」  いつもなら俺が珈琲を淹れる所だが、今日は甘えよう。 「じゃあ、ちょっと待ってね」  さっちゃんがキッチンに立つ姿を見つめていると、ふと昔を思い出した。  澄子さんもこんな風に、よく俺にココアを作ってくれた。  寒い日に、青木家の家族の団欒に混ぜてもらいながら、フーフーとマグカップに息を吹きかけると、暖かい蒸気が立ちこめて甘い匂いがした。 「なるほど、幸せとは……こんな味がするのか」と思ったものだ。  さっちゃんが俺にココアを持ってきてくれたので、二人で暖炉の前で肩を並べて飲んだ。 「勇大さん、あのね……瑞樹もココアが好きだったの」 「そうだな。ココアは幼いみーくんの大好物だったよ」 「まぁ、やっぱりそうだったのね」 「さっちゃんも、気づいてくれたのか」 「えぇ……瑞樹は大人しくて、遠慮深い子だったから、その分なかなか好き嫌いを明かしてくれなくて大変だったのよ。表情も乏しくて……」 「そうだったのか。そんなみーくんの好物を探し出してくれてありがとう」 「時間がなかったけれども、これだけはと思い、聞き出したり観察したのよ」 「ありがとう。さっちゃんはやっぱり優しい人だ」  優しい気持ちで寛いでいると、窓の外から何か音がした。  呼び鈴が鳴っているようだ。 「こんな朝に誰かしら?」 「サンタクロースかもな」 「まぁ勇大さんったら、私たちもうずいぶんな年齢の大人よ」 「だが、帰宅途中に寄ってくれたのかもしれないぞ」  そんなふざけたことを言いながら玄関を開けると、本当にサンタクロースが立っていた。いや、すぐに本物のサンタではなく郵便局の人だとは分かったが、今日はサンタクロースの衣装を身につけているので、俺たちも騙されてしまおう。 「Merry Christmas! このお家にはプレゼントが山ほど届いていますよ」 「えぇ?」  どんどん渡されるダンボール。  贈り主を見ると、広樹の家族、みーくんの家族、潤の家族。つまり俺たちの3人の息子からの贈り物が、仲良く揃って25日に到着したようだ。 「さっちゃんの巻いた種が、花咲いたようだな」 「贈り物って、いくつになっても嬉しいものね」 「あぁ、皆、俺たちの存在を思い出して、俺たちの笑顔を思い浮かべながら選んでくれたのだろう。開けて見よう」  長男の広樹からは、新しい花切鋏だった。 『母さん、大沼の春を摘んでみて』  春が待ち遠しくなるような粋なメッセージだ。  末の息子、潤からは軽井沢のジャムセットだった。 「ブルーベリーにいちご、マーマレードと沢山入っているな」 「潤ってば、薄給で子供もいて大変なのに……こんなに沢山いいのかしら?」 『母さんお手製のホットケーキに添えて、ダンナさんの胃袋を捕まえて』 「潤の気持ちがこもっているな。有り難く受け取ろう」 「そうね。あの潤が……こんなことまで出来るようになって感慨深いわ」 「潤だから出来るようになったんだ。さっちゃんが頑張って育てた潤だから」    肩を抱いてやると、さっちゃんは涙ぐんでいた。 「そうね、潤は優しい子。知っていたのに……うまく引き出してあげられらなかったの」 「そんなことない。今、花開いているじゃないか」  最後はみーくんからの贈り物だった。 「これはまた、最高の贈り物だな」 「本当に……」  ペアのマグカップは茶色とピンク。  それぞれのマグカップに書かれた文字は『Tea for Two 』    二人でお茶を――  それは俺がこれから毎日、使う台詞だ。

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