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HAPPY HOLIDAYS 9

「勇大さん、雪、一晩中降っていたようね。大沼はこうやって雪深くなっていくのね」 「そうだな。大沼の冬は、まだまだこれからさ」  駒ケ岳が雪化粧し湖が結氷する冬がやってきた。  寒さはかなり厳しいが、白銀の世界の美しさは格別だ。  大樹さんたちを失ってから、雪は俺の心の傷をえぐる凍てついた凶器のように感じ、寒さから身を守り、熊のようにログハウスで冬眠していた。    だが、今は違う。  俺は最近この季節がとても好きになった。  空から舞い降りてくる清らかな粉雪は、天国からのメッセージように思え、大樹さんと澄子さんと夏樹くんを身近に感じられる。  不思議だな。 「勇大さん、今日は12月25日、クリスマスね。みんなどんな朝を迎えたかしら?」 「俺たちみたいに幸せな朝さ」 「じゃあ温もりが満ちているのね」 「そうだよ。なぁ、さっちゃん、俺たちも部屋にクリスマスツリーを飾ろうか」 「素敵!」 「森に探しに行ってくるよ」    たっぷり着込んで外に出た。  散策路には雪が降り積もり凍っている部分もあるので、滑り止めの付いたブーツやダウンコートなどの防寒対策は必須だ。  そのまま雪降る森を黙々と歩いた。     今の俺は以前のようにあてもなく彷徨うのではなく、目的を持って歩いている。  それだけで踏みしめる大地がしっかりしてくるものだな。  もう揺らがない。  守りたい人が沢山いるから。  笑い合いたい人が沢山いるから。  すると森の中、朝日が集まる場所にひっそりとトウヒの木が立っていた。  こんな場所があったなんて――  トウヒは木の先端の枝振りが星の形のように見えるので、確か美瑛では『クリスマスツリーの木』と名付けられ、フォトスポットになっているはずだ。  大沼でも、このような木と出会えるとは……    その木は、都会のようにオーナメントで派手に飾られていないが、その分シンプルで凜とした美しさがあった。 雲の世界との対話したくて、ついに口に出してしまった。 「大樹さん、俺は華やかさがなくても、人を魅了できる人間になりたいです」 「熊田、お前はもう既にそうなっているよ」 「そうよ、熊田さん」 「くましゃん、そうだよ」  会いたい人の懐かしい声がした。    降る返ると、木立の間に真っ白なトナカイの姿が見えた。  3匹の神々しいトナカイは、きっと神さまのお使いだ。 大樹さん、澄子さん、夏樹くん Merry Christmas! 「メリークリスマス。熊田!」 「熊田さんも幸せになって良かったわ」 「くましゃん、だーいすきだよ」  俺は愛されていた。  俺は愛されている。  今も、昔も――愛されている。  ログハウスに戻ると、さっちゃんが出迎えてくれた。 「すまない。ツリーはちょどいいのが見つからなかったんだ」 「いいのよ。私にとってはあなたがクリスマスツリーなの。ずっと傍にいて下さいね」 「もちろんさ」 『ジングルベルジングルベル 鈴がなる 森に林に響きながら 走れソリよ丘の上は 雪も白く風も白く 歌う声は飛んでゆくよ かがやきはじめた星の空へ』*作詞・宮沢章二  空から舞い降りてくる雪にシャンシャンと鈴の音が……風にのって夏樹くんの可愛い歌声が聞こえてくる。  雪の結晶には、メッセージが込められているとみーくんが以前教えてくれた。  元気でやっているか。  幸せでいるか。  誰かを深く愛しているか。    その答えは全てYESだ!  さっちゃんを愛し、広樹とみーくんと潤という三兄弟の父になりました。  いっくんと芽生坊を愛おしく思っています。  毎日忙しいくらい愛しています。 「はは、それを聞いて安心したよ。まずは熊田が幸せになってくれ。それから瑞樹を頼んだぞ。何度も言ってすまないが、俺たちの愛する息子をどうか頼む」 「任せて下さい」  約束しよう、彼らの幸せを見届けると。  約束しよう、俺も幸せになると。

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