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HAPPY HOLIDAYS 8

 クリスマスの月影寺 「流さん、今日は誰も見えませんね。せっかくの日曜日なのに、どうしたのでしょう?」 「ははっ、小森、今日は何日だ?」 「えっと12月24日ですが」 「つまりクリスマスイブだ」 「あぁ、そうでした! 今日はお寺ではなく皆様、教会に行かれますよね」    道理で御朱印所に、誰も来ないはずですね。 「だが俺はクリスマスが昔から大好きだ。おもちゃをもらえるのが楽しみで楽しみで、だからこの寺に来た時は、あまりにクリスマスとかけ離れていてがっかりしたのさ」 「そうなんですね。流さんとおもちゃですか、なんだか想像つかないのですが」 「そうか? 小森とあんこみたいな関係だ。おれは玩具が大好きな子供だったよ。プラモデルを作るのが得意で、それだけじゃ飽き足らず、この手でいろんなものを作ってみたくなったのさ」 「なるほど」  流さんが物を作り出すのに長けている理由が分かりました。 「今日はもうこれ以上待っても誰も来ないだろう。少し早いが店じまいするか」 「了解しました。では門を閉めてきますね。あっ、でも……あと一人客人が……」  休日出勤を終えた菅野くんが、月影寺まで来てくれるのですよ。   「知ってるさ。だから、お前はそろそろ出迎えの準備をしろ」 「あ、はい」  山門に立つと、門に緑の緑の針葉樹でリースが作られていました。おぉ、赤い実は南天ですね。和の趣のクリスマスカラーも素敵ですね。  クリスマスを心から楽しむなんて、いつぶりでしょう?  僕には無縁の華やかで賑やかな世界が、少しだけ苦手でした。  でも、今は違います。  菅野くんと出会って、菅野くんを好きになって、世界が色づきました。  赤や緑のカラフルな世界は、僕の胸のときめきの色と似ています。 「風太! 迎えに来てくれたのか」 「菅野くん!」 「すごく会いたかったよ」 「僕もですよぅ」 「今日は二人でクリスマスパーティーをしよう」 「あ、でも……ごめんなさい。僕、何も用意できていません」 「風太がいれば何もいらないよ」    気の利いたことが出来ない僕を労ってくれる菅野くんの言葉に、きゅんと胸が高鳴ります。甘えたくなります。 「菅野くぅん……」 「ははっ、可愛いな、子犬みたいだ」 「嬉しいんですよ。僕を大切にしてくれて」 「当たり前だ。風太は大切な人だ。それに風太も俺を大切にしてくれるだろう」 「はい。大好きですから」 「俺もだよ」  二人で門を閉めて、石段を手を繋いで上りました。 「へぇ、寺庭をライトアップしているんだな。あそこには大きなツリーもある」 「わぁ、いつの間に」 「この寺にはサンタクロースが沢山いるもんな」 「そうかもしれません」  ここはご住職さまが張られた結界の中。    お寺にもクリスマスはやってくるのですね。  それが、ご住職さまの望まれる世界なんですね。  母屋に挨拶に行くと前掛けをした流さんが出迎えてくれましたよ。 「おお、来たな」 「流さん、今日はお邪魔します」 「二人で楽しいクリスマスパーティーをするといい。ほら、これを持っていけ」  持たせてくれたのは揚げたてのフライドチキンにフライドポテト。それにクリスマスケーキまで。 「ケーキは小森スペシャルであんこのホイップクリームのロールケーキだぞ」 「わぁぁ、あんこちゃん」  僕、愛されています。  菅野くんだけでなく、月影寺に愛されています。 「小森くん~ 僕からも君にクリスマスプレゼントがあるよ」 「あっ、ご住職さま」  ご住職さまは抱えきれない程のプレゼントを持っていました。 「これは冬の衣装だよ。冬場の庭掃除は冷えるから暖かいものを流に作ってもらったよ」 「うれしいです」 「それからね、これはあんこ博物館から取り寄せた起毛トレーナーセットだよ。冬場のパジャマにどうかな? こっちはあんこ印のマグカップ。ペアだよ。それからね……」  ご住職さまは白い袋から次々とプレゼントを出してくれました。 「わぁー あんこちゃーん、ご住職さまと流さんは、僕のサンタさんです」 「ふふっ、小森くんの幸せそうな顔を見たくて、つい買いすぎてしまったよ。なっ、流」 「あぁ、お前はなんだかくせになるよ。つまり……子供みたいに可愛い」 「嬉しいです」  愛されるって、素敵なことですね。  愛されると、愛したくなります。  僕、人が好きになりました。  月影寺の皆さんが好きです。    菅野くんが大好きです。  僕の部屋で菅野くんが抱きしめてくれました。 「風太が皆に愛されて、俺も嬉しいよ」 「菅野くん、もっと、くっついてもいいですか」 「もちろんだよ」 「はい」  二人でクリスマスパーティーをして、あんこのケーキを食べました。  でも、僕のお腹は満たされません。  その理由を、僕は知っています。 「菅野くん、あの……もっとくっついていいですか」 「もちろんだよ」 「菅野くんにクリスマスプレゼントを用意しようと思ったんです。でも僕、うまく思いつかなくて……ごめんなさい」 「ん? 俺はもうもらったよ。この腕の中に」 「あっ……」  優しく抱き寄せられ、ちゅっとキスしてもらいました。 「んっ、んっ、もっと……くださいますか」 「もちろんだよ。俺からのクリスマスプレゼントだよ」  甘いですよ。あんこより甘いこれが……僕は好きです。 「僕、菅野くんに食べてもらうの好きです」 「風太~ 煽るなぁ」 「でも、でも、本当のことなんですよ。菅野くんが大好きですよ」  それはとても甘い甘い夜でした。  僕たち、夜更け過ぎまで愛し合いました。  愛って二人で育てて、二人で分け合うものなんですね。  今いてくれる人、今あるものに感謝して、してもらったことに感謝していくと、どんどん愛は貯まっていくのですね。  とても優しい夜でした。  窓の外にはクリスマスツリーが輝いています。  明るい月明かりに包まれて、それぞれの家でも、優しい愛が育まれているのでしょうね。 ****  軽井沢 「ママぁ、いってきます」 「いっくん、寒いからマフラーをしようね。潤くんもよ」 「はーい」  ママがしゃがんで、ゆっくりマフラーをまいてくれたの。 「えへへ、あったかい」 「……いっくん、今までごめんね」 「どうちたの? いっくんはずっとママがしゅきだよ」 「ありがとう」 「さぁいっくん、手をつないでおもちゃやさんにいこう」 「パパ、あい!」  おんもはさむいけど、いっくんぽかぽかだよ。  ずっとね、おもちゃやさんにパパといってみたかったの。  あこがれっていうんだって、このきもち。  めーくんもね、みーくんがきてくれてから、いっぱいゆめがかなっているっていってたよ。 「いっくん、もうすぐ着くよ。あそこだ」 「わぁぁぁ、おもちゃがいっぱいあるよ」 「好きなの買ってあげるよ」  おもちゃやさんには、おもちゃが見上げるほど、つんであったの。 「しゅ……しゅごい」 「どれがいいかな? いっくんは何が欲しい?」 「いっくん、どうちよう、どうちよう」 「ははっ、ゆっくりえらんでいいよ」  いっぱいありすぎて、まよっちゃうよ。  こんなにいっぱいのおもちゃ、みたことないんだもん。 「ゆっくりゆっくりで、いいんだぞ」 「うん!」  パパが、ゆっくりでいいって。  ゆっくり、ゆっくりで。  いっくんね、いっぱいかんがえるから、すぐにきめられないの。  だから、ゆっくりでいいって、うれちいな。 「あ……これ……いいなぁ」 「ん? おままごとセットか」 「パパとママとまきくんに、いっくん、ごはんつくってあげたいの」 「そうかぁ、それはうれしいな。じゃあこれにしよう」 「えっ、いいの? ほんとうにいいの? おんなのこのおもちゃなのに」 「そんなの関係ないさ。料理はみんなするものだし、いっくんの気持ちが嬉しいよ」 「わぁ……うれちい」  ほいくえんで、おままごとのおもちゃはおんなのこがあそんでいて、なかなかつかえなかったの。いっくんもあそんでみたかったの。 「これ、くだしゃい」 「わぁ、よかったわね。パパからのプレゼントなのね」 「あい! いっくんのパパがね、かってくれるの、しゅごいよね」  おみせのひとにも、おしえちゃった。  いっくんのパパは、しゅごいんだよって。  いっくんのあこがれが、ぎゅーっとつまってるよ。 「パパぁ、きょうはいっくんがごはんつくるね」 「あぁ、幸せでお腹がいっぱいになるよ」 ****  その晩、オレたちはいっくんがおもちゃで作ってくれたごはんを食べた。  食べる真似をしただけだが、いっくんは満足そうに笑ってくれた。  君の笑顔、絶対に守るよ。  オレはそのために、ここにやってきた。  すみれと出逢い、いっくんの父となり、槙が生まれ……幸せな時が流れている。  幸せは泉のように溢れてくる。  その源は、いっくんだよ。    いっくんの笑顔を守りたい、その気持ちがオレたち家族の根底にあるんだ。 「パパぁ、おもちゃかってくれてありがとう」 「いっくん、よかったな」 「パパぁ、あしたもいっちょにあそんでね」 「もちろんだよ」  幸せは積み重ねていくもの。  大切に、大切に……日々を過ごせば、誰にもでも叶うもの。

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