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HAPPY HOLIDAYS 12

 ペットショップで、子犬の今後の予防接種スケジュールや注意事項など、1時間以上かけてしっかり説明を受けた。  大人の難しい話なのに、芽生は私の横に背筋を伸ばして座り、真面目に聞いていた。  時折ノートに鉛筆で、大切なことを書き込む姿にも好感を持てた。  芽生は『聞く耳』を持っている。  それはとても大事なことだ。芽生はまだたった9歳なのに偉いな。  相手の話を聞いて柔軟に対応することが、どんなに大切か……私は数年前までは自分の意見を美智に押しつけて、言葉で言い負かしてばかりだったのに。 「芽生、どうしてメモを取る?」 「あ、あのね、よくお兄ちゃんがしているの。大切なことはきちんと書いておくといいよって、教えてもらったの」 「そうか、よい心がけだな。そうか、瑞樹の影響なのか」 「ちゃたのことは大切なことだもん」 「そうだな。よし、おじさんもしっかりメモを取っておこう」  二人でふんふんと説明を熱心に聞いた。  不思議だな、芽生とこんなに気が合うなんて。  私には子供がいなかったこともあり、以前は、一人っ子の芽生にどう接していいのか分からなかったが、今は教えてあげたいことが沢山あるし、芽生から学ぶことも沢山ある。  キャリーケースにちゃたを入れてもらい、いよいよ我が家に連れて帰る。 「芽生が持つか」 「えっとね、持ちたいけど、ボクはまだ小さいから、おじさんに持ってほしいな」 「そうか、じゃあ一緒にゆっくり歩こう」 「うん」  母は私と芽生の会話を、ずっと目を細めて見つめている。  さぁ、今日から滝沢ファミリーに家族が増えるぞ。  名前はちゃた。10月10日生まれの男の子だ。  みんなで育てていく。  そんな存在が生まれたのが嬉しかった。 「おじさん、ありがとう。おばあちゃんとボクの夢を叶えてくれて」 「ん? 私は何もしてないが……」 「おじさんがいてくれたから、今日こうして引き取れたんだよ。おじさんもわんちゃんが好きでよかった」 「そうだな、おじさんも好きだよ。新しい家族が増えたことにワクワクしている」 「ボクも同じ気持ちだよ」    夢と希望に溢れた道を歩んでいる。今の私は……  それは私に寄り添ってくれる家族が沢山いるから。  自宅に連れて帰り、ちゃたをそっと抱っこしてやると、ペロペロと私の手をなめてくれた。  愛おしい。  心から自然に湧き出る気持ちに、嬉しくなった。 「芽生、私も一緒に育てるよ」 「うん、ちゃたは、みんなの家族だもん」 「芽生のことも、同じように大切に思っているんだ」  初めてかもしれない。面と向かって言うのは…… 「わぁ、おじさん、ありがとう。ボクもおじさんのことが大好きだよ!」 ****  ボクは夜まで、おばあちゃんちにいたよ。  ちゃたを見ていると、とっても優しい気持ちになるね。冬は早くお外が暗くなっちゃうから、放課後スクールにいると、さみしい気持ちになっちゃうんだけど、ちゃたがいれば、もうさみしくないね。  おじいちゃんのお部屋でちゃたを見つめていると、ちゃたもボクを見てくれる。 「ちゃた、ぼくたち、ともだちになろう」 「キューン」  そこに、おばあちゃんが呼びに来てくれたよ。 「芽生、パパ達が揃って帰ってきたわよ」 「ほんと?」  玄関に走って行くと、スーツを着たパパとお兄ちゃんが立っていた。 「パパ、お兄ちゃん! ちゃたがやってきたよ」 「わぁ、ちゃたと名付けたんだね」 「あ、そうなの。どうかな?」 「すごくいい。可愛い! すぐに覚えたよ。お兄ちゃんもちゃたに会いたいよ」 「パパも会いたいぞ」 「こっちだよ。今日はしょにちだから、そーっとね」 「了解!」  ボクたちは、三人でちゃたを抱っこしたよ。  ちゃたはお兄ちゃんのおひざの上が気に入ったようで、くるんと丸まってくっついていた。 「アプリコットの毛色にくりくりの目で、可愛いですね」 「ちゃたー 俺の方にも来いよ」 「くぅん」  ちゃたはお兄ちゃんにくっついて甘えている。  ボクのお兄ちゃんはとっても優しいし、お兄ちゃんのおひざはとても落ち着くんだよ。  ボクもそこが大好きだよ。  ちゃた~ よかったね。  あれ? 今までに感じたことのない気持ちでいっぱいだよ。  あ、そうか……兄弟が出来たみたいな感じなんだね。 「お兄ちゃん、ちゃた、ボクの弟みたい」 「そうだね。芽生くんにとって心強い存在になるよ」 「うん」 「芽生くんもおいで」  お兄ちゃんがそっとボクをだきよせてくれる。 「芽生くん、ただいま」 「お兄ちゃん、お花の匂いするね」 「今日はなーんだ?」 「えっとね、あ、ゆりかな?」 「すごい、当たりだよ。芽生くんはすごいな」  お兄ちゃんが優しくボクをなでてくれる。  ボクがちゃたにしてあげることと、一緒だね。  ボクはお兄ちゃんにいっぱい愛されてる。 「芽生、よかったな。弟分が出来て。パパもちゃたのためにがんばるぞ」 「うん、パパ、かっこいい」  そしてパパに沢山守ってもらっている。  もうすぐお正月だね。  またボクは一つ大きくなるよ。  少しずつボクも変わっていくのかな?  でもね、ボクの心のおうちは、ずっとここだよ。 「宗吾さん、もうすぐ来年ですね」 「あぁ、来年もよい年にしよう」 「はい、そうなるよう努力します」 「ふっ、まずは大沼でゆっくりしよう。瑞樹は頑張り屋だから疲れがたまっているはずだ。正月は実家でゆっくりするといい。俺たちも一緒だしな」 「ありがとうございます。僕、幸せです」  お兄ちゃんの心からの笑顔を、パパと一緒に守っていくよ。  来年も再来年も、ずっとずっと。   **** 今年1年『幸せな存在』を読んで下さってありがとうございます。読者さまから頂戴するリアクションや感想を糧に、コツコツ更新できました。 宗吾さんと瑞樹の和やかな日常と、芽生やいっくんの成長を、来年も見守って下さると嬉しいです。この先も、なんでもない日常の幸せをコツコツ書いていけたらと思います。 皆さまも、よいお年をお迎え下さい。 来年もどうぞよろしくお願いします。                 2023/12/31 18時48分    海より            

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