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HAPPY HOLIDAYS 15

「お兄ちゃん、あけましておめでとうー!」 「ん……えっ、もう朝なの?」 「そうだよ~ 今日から北海道だね。旅行、たのしみ」  芽生くんの明るい声に、起こしてもらった。  熟睡していたらしく、時計を確認するともう8時を回っていた。  昨日、ヘトヘトになって最寄り駅に着いて、年を一緒に越せないことに意気消沈していると、突如現れた宗吾さん。  本当に救われた。  彼の広い背中の上で迎えた年越しは、ただ愛しい人の温もりをだけを感じる優しさが広がり、どこまでも心地よかった。  こんな静寂なら、大歓迎だ。  僕は、本当にもう一人ではないと実感できた。 「芽生くん、あけましておめでとう」 「おめでとー お兄ちゃん、昨日はさみしくなかった? こわくなかった?」  芽生くんがあどけない顔で、僕の顔を覗き込んでくれた。  そうか、宗吾さんが駆けつけてくれた背景には、芽生くんの優しい気持ちが灯っていたのだね。 「芽生くん、昨日はありがとう。お兄ちゃんさみしくなかったよ。少しも怖くなかった」 「よかったぁ」 「芽生くん、抱っこしていい?」 「うん、ボクもしてほしかったー、あのね、昨日は、ちゃたをいっぱいだっこしたんだよ。そうしたらすごくうれしそうだった。ボクもだっこがすきだから分かるんだ」 「うん、そうだね。僕も……抱っこもおんぶも好きだよ」 「お兄ちゃん、あのね。大人だって甘えていいんだよ。だってお仕事いっぱいがんばっているんだもん!」 「ありがとう」  芽生くんが僕を優しく抱きしめてくれた。  だから僕も芽生くんを抱きしめた。 「瑞樹、そろそろ起きられそうか」 「あ、はい!」 「お! いいな! よし、俺も参加するぞ」  そこに宗吾さんがやってきて、僕たちを大きく包み込んでくれた。  うん、これがいい。  ここが僕のホームだ。  疲れたら、ここで羽を休ませよう。    そしてここから羽ばたこう。 「昨日はすみません、なんとかお風呂には入ったのは覚えているのですが……そのままバタンキューでしたよね」 「なぁに、1日働きまくったんだ。俺は休みだったのに。本当におつかれさん」 「ありがとうございます。じゃあ、支度して挨拶にいきますね」 「了解、兄さんが何故か神経衰弱をしようと言っているから、ちょっと遊んで待っているよ、芽生、先に行っていていいぞ」 「わかったー!」  芽生くんがパタパタと廊下を走っていく。 「神経衰弱って、あーちゃんも出来そうですか」 「うーん、兄さんがあーちゃんとチームを組むんだってさ」 「なるほど、最強ですね。とっても楽しそうです」 「瑞樹も来いよ、少し遊ぶ時間があるから」 「はい」  宗吾さんが僕の髪を撫でてくれた。 「昨日ちゃんと乾かさなかったな」 「あ、眠くて」 「跳ねてるのも可愛い、うさぎみたいだ。おはよう、瑞樹」 「あ、おはようございます」  新年初のお・は・よ・うのキスを交わした。  さぁ、起きよう。  目を覚まそう。  ここはとても安全で安心で優しい場所だから。   ****  新年の朝からトランプゲームで盛り上がるなんて、いつぶりだろう。  そういえば俺が子供だった頃、こんな風に遊んだような。  いつも難しい顔をしていた父さんが、トランプを持って張り切っていたのを覚えている。  俺はまだ小さくて……  そうだ、今のあーちゃんみたいに5歳上の兄さんにチームを組んでもらった。  あの頃と兄さんは、何も変わっていないんだな。  成長するにつれどんどん心が離れてしまった兄弟だが、今、またこうやってどんどん戻っていく。  そこに綺麗に身支度を調えた瑞樹が入ってきた。  一気に場が華やぐ。  一瞬尻込みする瑞樹に、俺は優しく声をかける。 「瑞樹、待っていたぞ」 「あ、はい」 「瑞樹もこっちにいらっしゃい」 「はい」  母さんの横に瑞樹がちょこんと座って、新年の挨拶をする。 「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」 「瑞樹、あなたが加わってくれてから滝沢家は良いことばかりよ」  母さんの言葉に、瑞樹は頬を染める。 「そうだな、瑞樹は幸せを運ぶ妖精だ」  ひぇ~ 兄さんから妖精という言葉が出るなんて、驚いた。 「え、そんな……僕は……」  瑞樹が真っ赤になる。 「憲吾おじさん、いいこと言うんだね。ボクもそう思ってた-」 「ははっ、やっぱり芽生とは気が合うな」  兄さんと芽生が肩を組んで笑っている。  すると、瑞樹も笑顔になる。  あーちゃんと美智さんもその傍らで笑顔になっていく。  瑞樹……  君がいる場所には、笑顔の花が次々と咲いていくよ。  さぁ凍えるような寒さの北の大地にも、その可憐な笑顔を届けに行こう!

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