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HAPPY HOLIDAYS 16
「さぁ芽生、お年玉よ」
「わぁい、おばあちゃん、ありがとう」
「芽生、これは私からだ」
「わぁ……おじさんもありがとうございます」
「よしよし、北海道旅行を楽しんでおいで」
「うん、おばあちゃんとおじさんたちにもおみやげかってくるね。あーちゃんも楽しみにしていて。えへへ、あーちゃん、おとしだま、うれしいね」
芽生はあーちゃんと一緒に、ポチ袋をもらって喜んでいる。
俺もこのタイミングで、芽生とあーちゃんにお年玉を渡した。
うちは親戚が少ないから、とにかくありがたいよ。
「母さん、毎年、ありがとうな」
「うふふ、おばあちゃんの楽しみなのよ。そうそう今年は宗吾と憲吾と瑞樹そして美智さん、みんなにも、お年玉があるのよ」
「えぇ? どうしたんだよ。俺たちにまで」
「少しだけど私の気持ちを受けって。あなたたちはもう大人だけど、私にとっては、ずっと可愛い子供なのよ」
「えっ……」
瑞樹は、ぽかんと驚いた様子で固まっていた。
俺もこの歳になってまさかお年玉が復活するとは思ってなかったので、照れ臭い。兄さんも同じ様子だ。最初に口を開いたのは美智さんだった。
「お母さん、私……なんだかすごく嬉しいです」
「良かった! 美智さんのような可愛い娘が出来て嬉しいわ」
美智さんは娘扱いしてもらって、嬉しそうだった。
いろんな親がいて、いいと思う。
俺の母さんは、こういう人なんだ。
そう思うので、母さんの気持ちを有り難く頂戴しよう。
瑞樹も頬を染め感極まった様子で母さんにお礼を言っていた。
「お母さん、ありがとうございます」
「瑞樹は末の息子よ。んー 今日も可愛いわね」
「お母さん……」
瑞樹の口から発せられる「お母さん」という言葉には、いつも胸が切なくなるよ。
「母さん、俺にもありがとう。いつも感謝している。今年も沢山集まろう」
「母さん、私にまでありがとうございます。照れくさいですね。でも気持ちが嬉しいです」
「そうよ、素直に受け取ってくれるのが一番嬉しいわ」
瑞樹がその後、俺の傍に寄ってきた。
「宗吾さん、お母さんからお年玉をいただくなんて、僕……びっくりしました」
「ははっ、俺の母さんらしいだろ? ここは素直に受け取って、お礼に北海道で美味しいものでも買ってこよう」
「いいですね。そういう関係。蟹でも差し入れましょうか。でも……僕はこのポチ袋の中身は、もったいなくて使えませんよ。生涯の宝物です」
『みずきくんへ』と、毛筆で書かれたポチ袋を、瑞樹は愛おしそうに見つめていた。
きっと幼い瑞樹も、ご両親からお年玉をもらっては、今と同じように可憐な笑顔を浮かべていたのだろうな。
「そう言えば……幼い頃、お年玉を貯めて、お母さんに青い車を買ってあげようと思っていたんですよ」
「そ、そうか」
まずい、嫌な過去を思い出させちまったか。
「今はいつか家族を乗せる車が欲しいな。いつかマイホームを持てたら、僕の大切な人を乗せてドライブしたいです」
一瞬、悲しい思い出をほじくってしまったかと案じたが、そうではなかった。
瑞樹の懐かしい過去は今は悲しい思い出ではなく、未来へ繋がっている。
思い出から生まれた、夢と希望。
一緒に叶えていこう!
****
元旦の軽井沢は、一面の雪景色だった。
大晦日の夜から降り続いた雪は、古いアパートを綺麗に雪化粧してくれた。
「いっくん、あけましておめでとう」
「パパぁ、ママぁ、あけまちておめでとうございましゅ」
さぁいよいよ2024年、新しい年のスタートだ。
家族が増えて初めて迎えるお正月。
何もかもが輝く幸せに満ちた場所に、オレはいる。
結局年内に広い物件を見つけて引っ越すことは出来なかったが、きっとこのアパートで迎える新年は、今年が最後になるだろう。槙のベビーグッズだけでもかなりの荷物で、いよいよ足の踏み場がなくなってきたから。
「潤くん、流石に本気で探さないとね」
「あぁ、本腰を入れるよ。すみれが育休のうちに引っ越そう」
「うん、いっくんと槙の子供部屋が欲しいわ」
「そうだな。子供部屋か……憧れるよ」
「このアパートは少し悲しい思い出が多くてね、心機一転したいな」
「……すみれが踏ん張って頑張った家だよ。本当に頑張った。いっくんをこんなにいい子に育てて、すみれはすごいぞ」
「潤くん……ありがとう」
夢は待っているだけでは叶わない。
アクションを起こさないとな。
自分から一歩踏み出せば、世界がどんどん変わっていく。
オレは身をもってそれを学んでいる。
「パパぁ、あのね、いっくん、きのうふしぎなことがあったの」
「どんな?」
「トントンってよなかに、だれかさんがね、おまどをたたいていたの」
「んー きっとそれは雪の音じゃないか? 昨日は吹雪いていたし」
「でもね、えっとね、いっくんね、きになって、だれでしゅかってきいちゃった」
「えぇ? なんだって泥棒か!」
仰天して身を乗り出すと、すみれに制された。
「潤くんってば落ち着いて。いっくんの夢よ。たまにこんな風に話すことがあるのよ」
「そ、そうか。それで? 窓には誰が立っていた?」
ドキドキしながら聞くと、いっくんは満面の笑みを浮かべた。
「あのね、ゆきだるましゃんがいたの。窓からそーっと覗いていたよ」
「ゆきだるまさんだったのか」
「それでね、『いっくん、クリスマスはたのしかった?」ってきかれたのー」
「そうか」
「いっくんね、そのときね、ゆきだるまさんが、だれだかわかったの」
「ん? あ……もしかして」
「うん、おそらのパパだったよ」
「きっとゆきにのってやってきたんだね」
「そうだな、いっくんの様子を見に来てくれたんだな」
「いっくんね、クリスマスだけじゃなくて、まいにちがしあわせだよって、こたえたんだ」
「いっくん、ありがとう」
「ゆきだるまさん、よかった、ほんとうによかったっていってたよ」
「そうか、そうだったのか」
「おひっこしさきも、おしえてあげていい?」
「え?」
「だって、ことちはおひっこしをするんでしょ?」
「そうだな、パパとママといっくんとまきの家族の家に引っ越そう」
「うん、パパといっしょうれちいさな。いつもいっしょ、うれしいな」
いっくんを中心に笑顔が集まる、そんな優しい元旦の朝だった。
いっくんのお空に逝ってしまったお父さん。
あなたの息子は、こんなに大きくなりました。
これからもずっと成長を見守って下さい。
この子が元気にすくすく成長することを祈って下さい。
オレと一緒に――
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