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HAPPY HOLIDAYS 17
「パパ、お兄ちゃん寝ちゃったね。もう、ぐっすりだよ」
「そうだな。よほど疲れていたんだな。まだまだ寝たり無かったようだ」
「そうなんだね。お兄ちゃん、いつもがんばりやさんだもんね」
羽田発函館行の飛行機が離陸した途端、瑞樹はまたこっくりこっくりと船を漕ぎ出してしまった。
だが全く嫌ではない。
俺も芽生も、瑞樹が安心して眠れる場所になれたことが嬉しくて、上機嫌になっていた。
やがてシートベルトサインが消えて、ドリンクサービスが始まる。
客室乗務員の女性がおもちゃの入ったバスケットを持って回っているが、芽生はもう9歳だ。そろそろおもちゃも卒業かと思っていたが、声をかけてくれた。
「ボク、おもちゃをおひとつどうぞ」
「わぁ……あの、でもその前に毛布を1枚かしてもらえますか」
「あっ、寒かったですか。すみません」
「えっと、ボクじゃなくて、お兄ちゃんが寝ちゃったから」
「まぁ、優しい弟さんですね」
「えへへ」
おぉ! 芽生、やるなー
先を越されたよ。
いや、流石パパの子だ。
よくぞ、自分から気づきリクエスト出来たな。
俺たちは瑞樹を守る同士だ。
息子の成長が頼もしくなってきたぞ。
きっと今年はもっと成長を感じる年になるだろう。5月には10歳になり、小学校では二分の一成人式もある。
俺たち家族にとって、節目の年になりそうだ。
「はい、毛布をどうぞ」
「ありがとうございます!」
そして、ハキハキとお礼を言えるようになった。
昔は俺の後ろに隠れてばかりだったのに、瑞樹にきめ細やかに育ててもらったおかげで、相手の目を見て、きちんとお礼を言える子になった。
芽生は早速毛布をふわりと瑞樹の足下にかけてやった。
瑞樹は安心しきった顔で眠っている。きっと以前の君なら、どんなに眠くても芽生から目が離せす、俺にも気を遣って、こんな無防備な姿を見せることはなかっただろう。
素の君は年齢の割にあどけなく無防備で可愛い。
こんな姿を素直に見せてもらえるようになって感動している。
「おーい瑞樹、そろそろ着くぞ」
「あ、僕……」
「おっと、すみませんはなしだぞ」
「あ、はい、あの……もう大丈夫です。追加で眠れて元気になりました」
ニコニコと微笑む寝起きの君は、今すぐキスしたいほど可憐だ。
おっと、あまりデレデレしていると、出迎えに絶対来ているであろう広樹に怒られるな。
「広樹が来ている方に賭けてもいいぞ」
「えぇ? 兄さんは流石にお正月に迎えには……来ませんよ」
「いやいや、自分の結婚式にも抜けてしまうほどのブラコンだ。よくみっちゃんが許してくれたよな」
瑞樹は照れくさそうに微笑んだ。
「みっちゃんには頭が上がりません。みっちゃんが僕たち兄弟を理解して受け入れてくれて本当に良かった。僕にとって大好きなお姉さんです」
「そうだな、俺たちは恵まれているな。美智さんやすみれさん……理解ある女性と兄弟が結婚してくれて良かったな」
「はい、本当に感謝しています」
やがて飛行機は無事に函館空港に到着した。
俺は実は飛行機が着陸する瞬間が少し苦手で……無事に滑走路に降りて飛行機がきちんと停止するまでの間、息を詰めてしまう。瑞樹も同じようで、目を閉じて時が過ぎるのをじっと待っている。
「パパ、お兄ちゃん、こわくないよ。芽生がいるから」
「芽生くん……ありがとう」
こんな時、子供の無邪気な言葉はどんな薬よりもよく効くな。
案の定、飛行機から降りて到着ロビーに出ると、瑞樹の兄、広樹がすっ飛んできた。
「瑞樹ー 待っていたぞ、会いたかった~」
「お兄ちゃん!」
瑞樹からの「お兄ちゃん」コールが広樹を一番喜ばせることを知ってなのか、可愛い弟モードに変身していた。
広樹がガバッと瑞樹を抱きしめる。
もう恒例なので驚かない。
「ふふ、お兄ちゃん、迎えにきてくれたの? みっちゃんは?」
「みっちゃんの実家で優美と寛いでいるよ」
「そうなんだね。よかった」
「俺もあとで戻るよ。今日はみっちゃんの実家に泊まるから」
「お兄ちゃん、忙しい中ありがとう。大沼に行く前に会いたかったから嬉しいよ」
二人のやりとりに、潤といっくんの会話を思い出す。
いくつになっても、会いたいと思い合える関係っていいな。
芽生が大人になっても、そうであって欲しいな。
「宗吾、元気そうだな」
「あぁ、広樹もな」
「おっと新年の挨拶をしないとな。あけましておめでとう。ようこそ函館へ」
「明けましておめでとう。今年も葉山三兄弟の結束を見せてもらうよ」
「宗吾も一員だぞ」
「そうか、ありがとう」
さぁ、俺も函館を楽しもう。
与えられた機会は前向きに過ごした方が、得るものも大きいよな。
「俺が車で大沼まで送るよ」
「頼む!」
おんぶに抱っこでいいじゃないか。
してもらったら、してあげればいいんだし、そうやってもたれあっていくのって、あったかい。
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