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HAPPY HOLIDAYS 21

「さぁ、行こう!」  いっくんに芽生坊のお下がりのモコモコのダウンコートを着せて、マフラーをぐるぐる巻いて完全防備にして玄関に連れて行くと、不安そうにオレを見上げた。  ん? 目がうるうるしているぞ。  一体どうしたんだ?  早くしないと、初日の出が終わっちまうぞ。  少し気が急いて、いっくんの手を引っ張りそうになった。  駄目だ、絶対に駄目だ。  心が急ブレーキをかける。  こんな時は深呼吸して……  瑞樹兄さんなら、きっと優しく問いかけるだろう。  相手に寄り添って、心を揃えていくはずだ。  オレはいっくんの目線までしっかりしゃがんで、背中を優しく撫でてやった。  絶対に怖がらせない、威嚇しない。  心の中で必死に唱える。 「どうした? パパに話してごらん」 「あのね……パパぁ……いっくん、ほんとうにいってもいいの?」 「行きたくないのか。あぁ、外は寒いもんな」 「ううん、そうじゃなくて……いっくんだけいくの……いいのかなって。だってぇ、ママとまきくんもいきたいでしょ?」 「いっくん……」  オレにはない考え方で、驚いた。  オレだったら喜び勇んでついていく所だが、いっくんは違う。  ちゃんと理解してやりたい。  この子の気持ちを汲んでやりたい。  そこに槙を抱っこしたすみれがやってくる。 「いっくんって、いつもこうやって気遣ってくれるのよ。小さい時から本当に優しい子で天使みたい。いっくん、あのね、ママとまきくんは今日はいい子にお留守番をしているから、家族の代表としてパパと行ってきてくれるかな?」 「かぞくのだいひょう?」 「うん、いっくんたよりになるから、まかせてもいいかな?」 「わぁ、いっくん、たよりになるの?」 「そうよ。いっくんは逞しいいパパの息子だもの」 「わぁ……」  いっくんは、お決まりの感激のポーズを取って固まった。  両手を口にあてて、目を見開いている。  毎度のことながら、本当に可愛い仕草だ。  すみれが言葉の魔法をかけると、いっくんの笑顔がキラキラと輝いた。  やっぱり言葉って、魔法なんだな。  沈んだ気持ちを、こんな風に一瞬で元気に出来るのは、言葉の威力だ。  だから良い方向に使いたいよな。  人を悲しませるために使うのではなく、喜ばせるために使いたい。  前向きで明るい言葉を大切にしていきたいよ。 「パパ、いこう! いっくん、いくよ!」 「おぅ、じゃあ、すみれ、家族の代表で行ってくるよ」 「うん、私と槙の分もお祈りしてきてね」 「あぁ、もちろん」 「ママ、まかせてね」  いっくんが俄然、お兄ちゃんっぽくなる。  まだまだか弱い小さな子だと思っていたが、11日で5歳になるのもあって、急に成長したように感じるよ。  可愛い舌っ足らずの言葉も、そろそろ卒業なのか。  そう思うと少し寂しいな。 「パパ、どこにいくの?」 「碓氷峠見晴台という場所だよ」  長野と群馬の県境にある碓氷峠見晴台は、山々に囲まれた軽井沢町内でも初日の出を見るのに最適なスポットだそうだ。  北海道から出てきたばかりで軽井沢に土地勘のないレに、ローズガーデンの上司は懇切丁寧におすすめスポットを教えてくれた。うちは車がないからと、特別に車まで貸してもらえて、本当によくしてもらっている。  オレはどんどんこの土地が好きになっている。  車を走らせ、碓氷峠見晴台に向かった。 「パパ、まにあうかな」 「間に合うよ。いっくんと一緒だからきっとうまくいく」 「うん! いっくんもパパといっしょだとげんき100ばいだよ」  元旦の朝、大勢の車が駐車場には停まっていた。  みんな考えることは、一緒だ。  見晴台への道を、いっくんと手をつないで歩いた。  いっくんは白い息を吐きながら、小さな身体で黙々とついてくる。  結構な勾配で、4歳の子供にはきつい。  去年だったら抱っこにおんぶとせがむところだ。 「パパ、がんばろう」 「あぁ、がんばろう」  一人より二人って、このことを言うんだな。  楽しい。  特別な日じゃなくても、こんなに楽しいなんて。  いっくんと過ごせることが、楽しすぎる。  見晴台に上がると、群馬側の山からすぐに光が差してきた。  その場にいた人が皆「おぉぉ」と響めく。    いよいよ日の出の登場だ!  今日は抜けるような青空、最高の日の出が拝めるぞ。  山に後光がさすように、光の矢が届く。  オレといっくんもその光を受け止める。  自然と願いたくなる。  家族の幸せを、みんなの幸せを  世界の平和を――  大パノラマな景色と初日の出は圧巻だった。 「しゅごい……」     いっくんもオレも息をのんで、朝日が厳かに昇ってくるのを見守った。  朝日は俺たちを照らした後、西側の浅間山も照らした。 「パパ、おやまがきれいだね」 「あぁ、自然ってすごいな」 「いっくん、きょう、パパとこれてよかったぁ」 「あぁ、パパもだ」 「かえったら、ママとまきくんにもおしえるよ」 「あぁ、そうだ、あっちに神社があるからお参りしていこう」 「うん! でも……ね」  いっくんがもじもじする。  これはあのサインだ。 「いっくん、おちっこぉ……ぐすっ……」 「あー 待て待て、大丈夫だからな。冷えたんだな。あっちにトイレがあるからいこう」 「いっくん、もれちゃう」 「じゃあワープしよう」  オレが抱っこすると、いっくんはしがみついてくれた。 「えへへ、パパぁ、だーいしゅき。ことしもだいしゅきだよぅ」  成長するのも嬉しいし、甘えてくれるのも嬉しい。  親って贅沢だな。 **** 「瑞樹、大丈夫」 「お母さん……?」 「そうよ。あなたのお母さんよ」  夜中に目が覚めると、お母さんがすぐ傍にいてくれた。  額に手をあてて…… 「熱、だいぶ下がったわね」 「僕……いつから寝ていたの?」 「夕食におかゆとはちみつレモンティー飲んで、そのまま眠ってしまったのよ」 「今、何時かな?」 「夜中の1時よ」 「えっ、お母さん早く寝ないと」 「うん、でも瑞樹の様子が気になって……ずっとあなたのこと、こんな風に看病してあげたあかったのよ。本当は……」  とても優しい声が降ってくる。 「今してもらってるから……これで十分だよ」 「ありがとう」 「あの……お母さん……」 「なあに?」 「……えっと……ちょっと呼んでみたかったんだ」 「うれしいわ」  とても優しい時間がやってくる。

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