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HAPPY HOLIDAYS 36
前置き(興味のない方は飛ばして下さい)
旅行に行っていたので……久しぶりの更新になります。大変お待たせしました。また幸せな日常をゆっくり書いていきます。
BOOTHでの同人誌『幸せな存在 5周年記念本』のご予約、ありがとうございます。沢山のお申し込み嬉しかったです。本日、無事に印刷所に入稿しました。本の完成は2月28日なので、春庭の3月10日前後に発送できるよう準備します。詳しいことは都度エブリスタのエッセイで書いていきますね。
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広樹……広樹……良かったわね。
本当に良かったわね。
あなたがお父さんと別れた時、まだたった10歳だった。
第二子がなかなか授からず、長い間一人っ子だったから、お父さんと過ごす時間も長かったわね。
楽しい思い出も一杯あったのよね。
だからお父さんが目の前から忽然と消えてしまって、怖かったでしょう。
寂しかったでしょう。
それなのにあなたって子は泣き言一つ言わずに、いつも私を助けてくれた。
私だけでなく、弟たちをサポートし、全力で守ってくれた。
高校生になる頃にはすっかり大人びて、一家の大黒柱になっていたわ。
兄として父として……あなたはいつだって自分以外の人を大事にしてくれた。
それに甘えて、私はあなたの泣き言一つ聞かずに、ここまで来てしまった。
あなたに何役も何役も……負わせてしまった。
だから、今、目の前の光景が嬉しくて涙が溢れてくるの。
勇大さんが瑞樹と広樹の写真を撮っているわ。
瑞樹と広樹は、肩を組んだり少しおどけたポーズを取ったり、仲良くじゃれ合っている。
広樹と瑞樹の無邪気な笑顔が弾けているわ。
なんて微笑ましい光景なの。
あなたたちのお父さんなのね
勇大さんは。
大きく暖かく包んで守ってもらっているのね。
それが嬉しくて、嬉しくて――
「お母さん、ありがとうございます」
「えっ……」
宗吾さんがいつの間にか横に立っていた。
「何を言うの? 私はお礼を言われる立場ではないのよ。何も出来なかった人間なの」
「いや、そんなことは絶対にないです。お母さんがいなかったら、この光景は見られませんでした。母は偉大ですね」
爽やかに強く明る言い切る宗吾さんの力強い言葉に、はっとした。
私はいつも後ろを振り返って後悔ばかりだったけれども、もう顔を上げよう。
こんな光景を見ないでいるなんて、もったいないわ。
今の私が出来ることを、やればいいのね。
後悔は水に流し、今を生きていく。
「今日は揚げたてのドーナッツをやっと息子たちに振る舞えるわ」
「お! それそれ、楽しみにしていましたよ。ぜひお願いします! 俺は蜂蜜たっぷりで!」
優しさと強さ。
瑞樹が東京で出会った宗吾さんは、両方兼ね備えているのね。
本当に素敵な人。
良かったわね、瑞樹。
あ、でも勇大さんの次によ。
って、私、今、惚気ちゃった?
心にゆとりがあるって、こんな感じなのね。
心が弾むのって、久しぶりだわ。
少女のように心がスキップしている。
気持ちもどんどん明るく元気になる。
それからね、広樹と潤のお嫁さん。
みっちゃんと菫さんも、二人とも息子を大切にしてくれる優しい女性よ。
人に恵まれると、人生が豊かになるのね。
そういう道を歩めたのは、やっぱり広樹のおかげだわ。
私がここまで生きてこられたのは、あなたのおかげ。
広樹、ありがとう。
そして瑞樹、潤、幸せになってくれてありがとう。
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揚げたての熱々ドーナッツにくまさん印の蜂蜜をとろーりとたっぷりかけて頬張ると、絶品だ。
「くまさんとお母さんスペシャルのドーナッツ、最高ですね」
「そうか、宗吾くんには、もっと蜂蜜をかけてあげよう」
「お父さん、流石ですね。お土産もありますか」
「ははっ、大瓶で用意したよ」
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
止まらないぜ!
「ふぅ、僕はもうお腹いっぱいです」
「そうかぁ、俺はまだまだ食べられるぞ」
「宗吾さん、でも……食べ過ぎじゃ……お腹が出ても知りませんよ」
じどっと瑞樹に腹を見られて、背筋を正した。
「ん? そうか、そういえば最近太った気がする」
腹を擦りながら瑞樹を見ると、心配そうな顔つきになった。
「どうしよう、本当に……少しお腹周りが」
「えぇ! あ、そうか、運動不足かな? 最近全然運動してないからさ」
瑞樹が隣で、固まった。
「……僕のせいかも」
深刻そうに瑞樹が呟くと、広樹が聞き耳を立てていたのか、すっ飛んで来た。
「どうした? 不安そうな顔をしてるぞ。兄ちゃんが解決してやるから話してみろ。なっ、瑞樹」
「……お兄ちゃん、あのね……宗吾さんが運動不足なのは僕のせいかもしれなくて……僕が12月忙しくて……ほとんど夜……」
おいおい、それを広樹に相談する?
知らないぞ。
「ん? 宗吾の運動不足と瑞樹の仕事が忙しいのがどうして関係するんだ? 宗吾にはジムに通う時間があっただろうに。あ! アイツ、テレビ見ながらビール飲んでゴロゴロしてるんじゃないよな? まったく親父臭いことを」
「え? あっ! ううん、何でもない。今のはかなかったことにして」
広樹は純粋だな。
そして瑞樹はヘンタイだな。
両方合わせて幸せでいいのか。
瑞樹は耳を真っ赤にして、スーハーと深呼吸している。
仕草がいちいち可愛い!
12月は数えるほどしか君を抱けなかった。
だから1月は沢山、求めていいか。
また、あの日のように渋谷のホテルに連れ込んでしまいたい。
瑞樹に熱い視線を送ると、また一段と顔が赤くなった。
それを見た芽生が、瑞樹の手を引っ張っる。
「お兄ちゃん、なんか暑そうだねぇ。そうだ、お外であそぼ!」
「あ、うん」
「瑞樹、芽生くん、外は寒いから帽子を被っていきなさい」
「はーい!」
「お母さん、ありがとう」
瑞樹と芽生は赤いニット帽を被って、再び外に駆け出した。
雲の上のなっくんも一緒に遊びたいのか。
空からまたちらちらと粉雪が舞い降りてくる。
とても寒いのに、とてもあたたかい雪に、ここでまた出会う。
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