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HAPPY HOLIDAYS 35

「さぁ、広樹、みーくん、中に入ろう。ここは寒いだろう」 「はい、お父さん」 「うん、お父さん」  僕と広樹兄さんの声がぴたりと揃ったので、思わず顔を見合わせた。そしてお互いニコッと微笑み合った。  優しい広樹兄さんの温もりのある笑顔が、僕は昔から大好きだ。  初めて向けられた笑顔に、どんなにほっとしたか。  大人たちの哀れむような視線、面倒くさそうな視線に胸が張り裂けそうだったから……  葬儀の日、話しかけてくれて、本当に嬉しかった。  なかなか新しい生活に馴染めなかったが、何度も兄さんの包み込むような笑顔に心を暖めてもらった。  兄さん、僕たち本当に良かったね。  またお互いに『お父さん』と呼べる人が出来て、嬉しいね。  気持ちを込めて見つめると、兄さんにも伝わったようだ。 「全部、瑞樹のおかげだ。ありがとうな」 「ううん、僕の方こそありがとう。お兄ちゃん」  二人が同じ分だけ幸せな気持ちになれて、本当に良かった。 「おぉ、圧巻だな」  ログハウスの壁一面に飾られた写真を、広樹兄さんが目を細めて見つめていた。 「また写真が増えましたね」 「あぁ、俺には息子が3人いるし、それぞれの家庭があるから増える一方さ」  くまさんが自慢げに笑う。 「これ、全部、お父さんが撮った物ですか」 「あぁ、息子たちをこのカメラで撮影するのが、俺の生き甲斐だ」 「生き甲斐になれるなんて……嬉しいな」  兄さんとお父さんの会話にほっこりする。  それから僕も改めて壁の写真を1枚1枚見渡した。    広樹兄さんが花屋の店頭で汗を拭いながら腕まくりして働く姿。    優美ちゃんを抱っこして、みっちゃんと仲良く歩く姿。  兄さんは、いつも凜々しくて素敵だ。  軽井沢にいる潤の写真もある。  作業服を着て、真剣な眼差しで薔薇を剪定している。  いっくんと手を繋いで歩く姿もいいな。  すみれさんと槙くんといっくんを守るように立つ潤に、惚れ惚れした。  潤……かっこいいよ! すごく素敵になったね。  そして僕たちの写真も沢山あった。  お父さんの目から見た僕たちは、弾けるような笑顔だった。  僕、こんなに明るく笑えるようになったのか。  まだ信じられないな。  宗吾さんと芽生くんの笑顔も一段と輝いている。 「これからも撮り続けるから覚悟しておけよ」 「楽しみにしています」 「楽しみだな」  兄さん、嬉しいね。    お父さんという存在が、こんなに安心できるものだったなんて、僕たち忘れてしまっていたね。 「さぁ、まずは乾杯をしよう。広樹は運転があって飲めないから、帰りにワインを持たすよ」 「嬉しいです」 「それからみーくんは病み上がりだからダメだぞ」 「残念だな」 「というわけで、今日の俺の相手は宗吾くん、君だ」 「ひえー お父さんと差しですか」 「あぁ、そうだ」  宗吾さんとお父さんが肩を組む姿に、宗吾さんにも、また『お父さん』と呼べる人が出来て良かったと、しみじみと思う。    そこに芽生くんがトコトコやってくる。 「お兄ちゃん、ボクが描いた絵もちゃんと飾ってあったよ」  芽生くんが指さす方向には、芽生くんのお手紙と絵が丁寧に飾ってあった。 「大切にしてくれるのって、すごくうれしいなぁ」 「よかったね」  人でも物でも、大切にするといいことがある。  大切ってとても大事なことなんだね。 「ボクね、大沼のおじいちゃんとおばあちゃんも大好きなんだ。お兄ちゃん、僕におじいちゃんとおばあちゃんをありがとう」 「そんな……」 「お兄ちゃんが来てくれてから、毎日、いいこといっぱいだよ」  芽生くん、君はやっぱり天使のようだ。  以前の僕は、僕のせいで皆が不幸になると後ろ向きにしか考えられなかったのに……宗吾さんと芽生くんと知り合ってからは、どんどん明るい気持ちになれているんだよ。 「それはね、芽生くんが幸せを探すのが上手だからなんだよ。僕も芽生くんのおかげで、上達したよ」 「わぁ、ボクでもお兄ちゃんのお役にたてるの?」 「当たり前だよ。大切なんだ……とても」  僕たちはギュッと抱き合った。    そこにカシャカシャと小気味よい音が響く。 「いい笑顔だな、二人とも。またコレクションが増えたよ」  沢山……撮って下さい。  僕たちが帰った後も、心はいつも賑やかでいて欲しいから。

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