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冬から春へ 11

 泣いちゃだめだよ。  だってボクが泣いたら、お兄ちゃんが心配しちゃう。  お兄ちゃん、きっと困った顔をして、すぐに潤くんたちを助けにいけなくなっちゃうもん。  だからずっと我慢していたんだ。    でもね本当はこわかったよ。  火事のニュースに、恐いことを考えちゃった。  もしも、もう潤くんやすみれさん、そしてボクの大事な弟のいっくんに会えなくなったら、どうしよう?  そう思うと、胸がぎゅうって痛くなったよ。  そんなボクを、憲吾おじさんが抱きしめてくれたよ。  ギュッと力強く。    パパでもお兄ちゃんでもない、不思議な感じ。  心強いって思ったよ。 「芽生、頑張ったな。もう大丈夫だ。みんな無事だったから安心しなさい」 「うん……よかった。ぐすっ……」 「芽生……」  おじさんが大きな手で、おそるおそるボクの背中を撫でてくれたよ。  その手が暖かくて、思わず泣いちゃった。 「よかった……みんな生きているんだね」 「あぁ、みんな無事だ。だから芽生、もう我慢しなくていい。泣いていい」 「ぐすっ……いっくんとまたあそべるんだね。よかった……おじさん、おじさん、ありがとう」 「あぁ、芽生、あの場でぐっと我慢して瑞樹を見送って偉かったな。おじさんは、そこに芽生の優しさを感じたぞ」 「ぐすっ……」  おじさんには、ボクの心の中が全部見えるんだね。   小さい頃、眼鏡をかけたおじさんにギロッっと見られるのが恐くて、いつもママの後ろに隠れていたのを思い出した。  なんでかな?  あの時のおじさんとは、もう全然ちがうよ。  おじさんがお兄ちゃんと潤くんがちゃんと連絡を取れるように、魔法を使ってくれたんだね。おじさんは「昔の仕事のつてを頼っただけだ」と言ってたけど、おじさんのお仕事って、どんなのかな?  すごく知りたいよ。  みんながドキドキしている時でも、ビシッと落ち着いていて、すごくかっこよかったよ。  パパもかっこいい。  お兄ちゃんもかっこいい。  おじさんもかっこいい。  そうか、かっこいいとかっこつけるって、全然違うんだね。  ボクも見習いたいな。    ボクも今日みたいな時に、落ち着いて判断できる人になりたいな。  大きくなったら、お兄ちゃんを守る騎士さんになりたい。    そのために、きっときっと必要なことだよね。 「よしよし、落ち着いたようだな。よし、今日はおじさんと同じ部屋で眠るか」 「え? いいの?」 「あぁ、もちろんだ」 「わぁ~ おじさん、大好き!」 「えっ、そ、そうか」  おじさん眼鏡のフレームを触るのがクセなのかな?    顔が赤いよ?  でもね、顔が赤くなるのはしっかり生きているから、相手を想う感情が灯っているからだって、おばあちゃんが言っていたよ。  だからとってもいいことなんだよ。    ボクのお兄ちゃんも、よく赤くなってるよ。 **** 「宗吾さん、間もなく高速を降ります」 「あぁ、だいぶ雪深くなってきたから気をつけろ」 「はい!」  こんな非常事態でも、瑞樹の運転は彼の性格と同じで、とても丁寧だった。    そして瑞樹らしい爽やかな凜々しさを感じる、すっと滑らかな走りだった。  君がスキー場で美しいシュプールを描く姿が見えるようだ。 「宗吾さん、ありがとうございます。僕だけだったら、こんなにフットワーク軽く動けなかったです」 「いや、俺は手助けしただけだ。今、この車を空を駆ける鳥のように飛ばしているのは、瑞樹、君自身だよ」 「はい、僕はこの目で弟一家の無事を確かめたくて」 「そうだな。それが一番、お互いに安心する方法だ」  やがて火事現場の付近で車を停めた。    瑞樹には、既に潤がどこにいるのか分かっているようだった。  暗闇を迷いなく走り出せば、向こうからも人が走ってくる。    煤だらけの男は…… 「潤、じゅーん!」 「兄さん、兄さん!」  瑞樹。  潤の元へ走る君の背中には、美しい羽が生えているようだ。  天国の家族に守られて、君はこの世を生きている。  

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