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冬から春へ 12

 オレは凍える寒さの中、腕の中に大切な家族を抱きしめて、兄さんの到着を待った。  家族で身を寄せ合い、必死に暖を取った。  きっともうすぐ来てくれる。  オレたちを助けに来てくれる。 「潤くん、すごく寒いね」 「すみれ、もっと近くに」 「パパぁ、パパのおてて、つめたいよぅ」 「いっくん、パパは大丈夫だよ」 「ううん、パパがおかぜひいちゃうよぅ」  いっくんが一生懸命、オレの手をさすってくれる。  そして小さな口で「ふぅふぅ」と必死に息をかけてくれる。  小さな温もりは、心も温めてくれる。  小さな命を守れて、本当に良かった。  本当に危機一髪だった。  あと少し帰りが遅かったら、大変なことになっていた。  いっくんは保育園にいただろうが、すみれや槙が火事に気づかず逃げ遅れてしまう可能性が高かった。  もしも……もしも……  オレの傍から、突然すみれや槙がいなくなってしまったら……  それは想像するだけで身震いがする程、恐ろしいことだ。  瑞樹兄さん。  兄さんはたった10歳で、こんな恐怖を一人で経験してしまったのか。  オレの家にやって来た当初、兄さんは夜中に飛び起きて、しょっちゅう泣いていた。悲鳴に近い声を上げていた。  そんな極度の怯えは、幼いオレには理解できないものだった。  だから兄さんには寄り添えなかった。  いつも何かに怯えビクビクしているのが理解できず、揶揄った。  意地悪もした。  広樹兄さんが、そんな兄さんを守ろうとすればする程、身勝手に妬み、暴れた。  兄さん、ごめん。    そんなオレを許してくれて、駆けつけてくれて。  兄さん、会いたい。    兄さん、恐い……恐いよ。  心の中で兄さんを想っていると、やがて一台の車が到着した。    その時点でもう分かっていた。  兄さんだ。    兄さんが助けに来てくれた! 「すみれ、兄さんが到着した!」 「潤くん、私たちは大丈夫だから、早く瑞樹くんを安心させてあげて」 「……ありがとう」  俺はすみれに子供達を任せて、走り出していた。  車を降りた兄さんも、オレめがけて走ってくるのが分かった。  兄さん、オレたち、こんなにも歩み寄れる関係になったんだな。・ 「潤、じゅーん、じゅーん」 「兄さん、兄さん、兄さん!」  互いの名前を呼びあえるだけで充分だった。  呼べば答えてくれる。  オレの名を呼んでもらえる。  こんな当たり前のことが奇跡だったなんて、オレは何も気づかず生きてきた。  兄さんはオレを抱きしめてくれた。  兄さんの方が10cmは背が低いのに、精一杯背伸びしてギュッと。  花のような香りがする兄さんの瞳は潤んでいた。 「潤、顔を見せて……どこも怪我してない?」  オレの顔を両手で挟んで、泣きそうな顔で真っ直ぐに見上げている。 「あぁ……無事だ。この通り、ピンピンしてる」 「良かった、潤に何かあったらと……恐かった……本当に良かった。潤も恐かっただろう」  素直に答えていた。 「あぁ、最初は夢中だったが、後からじわじわ恐くなった。家族に何かあったらと考えると震えが止まらなかった」 「当たり前だよ。火事は恐ろしい。目の前のものが突然消えてしまうのは……恐ろしいことだ」 「あぁ、だからこそ、今、目の前にいてくれる人を大事にしたいよ」 「そうだね。僕もそう思うよ」  宗吾さんは、オレと兄さんの様子を見守ってくれていた。 「よし、そろそろ避難するぞ。今日の宿泊先は確保したから、心配するな。すみれさんたちは?」 「宗吾さん、ありがとうございます」 「無事で良かった」 「はい」  すみれたちの所に案内すると、いっくんが駆け出してきた。 「みーくん、みーくん!」 「いっくん! ママを守ってえらかったね。もう大丈夫だよ。僕たちが来たから、もうこれ以上がんばらなくていいよ」 「ぐすっ、みーくん、あいたかったでしゅ、いっくん……ぐすっ」 「おいで!」  兄さんが膝をついて両手を広げると、いっくんがすごい勢いで飛び込んだ。

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