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冬から春へ 13
ここは、とってもさむいよ。
ブルブルしていると、パパとママが、いっくんをぎゅとしてくれたよ。
でも、でもね……
しゅこしだけ、さみちい。
ううん、すごく、すごく……かなちいの。
いっくんのおうち、もえちゃった。
どうちよ?
めーくんからもらったおようふくもサッカーボールも、ぜんぶなくなっちゃったよ。
もうあえないよ。
いっくん、おにいちゃんになるって、きめたのに、かなちくてえーんえーんしちゃいそう。
ううん、だめだめ。
もっとかなしいのはママだもん。
パパもがんばってるもん。
ぽろりとなみだがでそうになったとき、まきくんがなきだしたよ。
「えーん、えーん、えーん、えーん」
「どうしよう。槙、お腹が空いたみたい。さっき……離乳食を作っている最中だったから」
「えーん、えーん、えーん」
「困ったわ」
ここで、いっくんまでないたら、ママがもっとこまっちゃう。
だから……いっくん、おそらをみあげたよ。
おそらのパパぁ、こんなときどうしたらいいの?
たすけて……
……
いっくん、大丈夫だよ。
いっくんたちを助けてくれる人が沢山いるから、安心して。
それにね、物よりも生きている命が一番大事なんだよ。燃えて失ってしまったのは悲しいけれども、命あれば、またスタートを切れるんだよ。いっくん、すみれを守ってくれてありがとう。
……
しょっか……
おそらのパパ、ありがとう。
いっくん、げんきでた。
いっくんにはふたりのパパがいて、ふたりのパパがまもってくれたんだね。
パパ、ありがとう。
そのとき、パパのこえがしたよ。
「ここに兄さんが来てくれた! ちょっと待っていてくれ」
『にいさん』って、もちかちて……
みーくんでしゅか。
いっくんもドキドキしてきたよ。
みーくんはね、いつもやさしくて、いっくんがかくれんぼうしたきもちもみつけてくれるの。
だいすきな、みーくんがたすけにきてくれたの?
おそらのパパのいったとおりだったよ。
いっくんたちを、たすけにきてくれたよ!
「みーくん、みーくん!」
「いっくん! ママを守ってえらかったね。もう大丈夫だよ。僕たちが来たから、もうこれ以上がんばらなくていいよ」
「ぐすっ、みーくん、あいたかったでしゅ、いっくん……ぐすっ」
「おいで!」
みーくんがいっくんがとびこみやすように、おひざをついてりょうてをひろげてくれたよ。
だからそこにピョンっと、とびこんだよ。
あ……おはなのにおいがするよ。
とってもやさしいおはなのにおいに、ほろりとしたよ。
いっくん、もうないてもいいのかな?
「ぐすっ、えーん、えーん」
「あぁ、よしよし。こわかったね。びっくりしたね。よくがんばったね。もう大丈夫だ。いっくんには皆がついているから、大丈夫だよ」
****
僕たちはその足で、松本観光のホテルへ移動した。
とにかく詳しいことは後だ。
身体中、煤だらけの潤。凍えそうに冷え切った菫さんといっくんとまきくんに、一刻も早く暖を取って欲しかった。
「潤、この部屋を使って。とにかく今日は休んで」
「兄さん、ホテルの部屋まで取ってもらって、ありがとう」
「あと、これ、菫さんと子供達の着替えや、槙くんの離乳食など……一式入っているから使って」
「え?」
「女性と赤ちゃんのものは、宗吾さんのお母さんと憲吾さんの奥さんが用意してくれたんだ。潤のは宗吾さんのになるけど、とりあえずの着替え一式だ。いっくんのは芽生くんの物だけど、よかったら使って」
「ありがとう。今日は着の身着のままを覚悟していたから、助かるよ」
僕たちが部屋で話している間に、宗吾さんはホテルのルームサービスを頼んでくれた。
「こんな時間だから夜食セットしかなかったが、おにぎりと味噌汁頼んでおいたからな」
「ありがとうございます。何から何まで……オレたちだけじゃ気が動転して……何も出来ませんでした」
「困った時はお互い様だ。潤は瑞樹の大事な弟だ。俺も君たちを助けたい一心で駆けつけたんだ」
宗吾さん、ありがとうございます。
宗吾さんが僕を大事にしてくれるけだけでなく、僕の家族も大事にしてくれる。
こんなに嬉しいことはないです。
潤を可愛がってくれて、ありがとうございます。
心の中で一礼した。
「とにかくゆっくり休め。明日からのことは明日考えよう」
「ありがとう。そうだな……まずは身体を休めます」
「……潤、お疲れ様。潤はかっこいいお父さんだよ」
僕はありったけの愛を込めて、潤を労って励ました。
「兄さん、来てくれてありがとう。めちゃくちゃ心強いよ」
「役に立てて良かった。やっと兄さんらしいこと出来たかな?」
「すげー かっこ良かった」
「照れ臭いね。そういうキャラじゃないから」
「兄さんの兄さんらしい面も好きだ! 大好きだ」
「くすっ、元気が出てきたみたいだね。全面的に今後の相談にも乗るから、一人で抱え込まないで……」
まるで過去の僕に話しかけているような心地だった。
僕はこうやって、あの日の哀しみをまた一つ乗り越えていくようだ。
隣の客室に宗吾さんと入ると、急に力が抜けて床にへなへなと座り込んでしまった。
宗吾さんが慌てて駆け寄ってくれた。
「大丈夫か」
「はい……気が抜けて」
「ここまでノンストップで気を張っていたのだろう。さぁもう大丈夫だ。俺に身体を預けて……君も早く休んだ方がいい」
「宗吾さん……」
宗吾さんに抱き起こされて、ベッドに寝かされた。
「瑞樹、かっこ良かったよ。君の新たな一面にも惚れた」
「ずっと夢中でした。無事が分かってからは、一刻も早く駆けつけて励ましてやりたいと……」
「あぁ、最高の応援団だったな。いっくんも君に抱きしめられて落ち着いたし」
火事で家を失った潤家族に寄り添うことが出来たのは、あの日の辛い経験を乗り越えたから……
そう捉えると、僕は僕を褒めてあげたくなった。
瑞樹、ここまで頑張ったね……
「瑞樹、ここまで頑張ったな。君は最高の恋人だ」
宗吾さんが同じ言葉をくれる。
だから僕は、またあなたを好きになる。
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