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冬から春へ 40

 驚いたことに大河さんは流さんの大学時代の先輩だった。  同時に、大河さんは菫さんの会社の先輩でもある。  まったく別の所で、僕の大事な人たちが繋がっていたことに心が震えた。  こんな繋がりがあったなんて!  縁、縁、縁――  ご縁って、すごい。    人と人が出逢い、交流を深めていくのには、確かな縁があるようだ。 「このご縁、大切にしたいです」 「あぁ、こちらこそだ。俺たちはずっと二人だけの世界を生きてきたが、君たちや流たちを見ているともっと交流したくなるよ」 「ぜひ! ぜひお願いします」  そうだ!  この素敵なニュースを僕の大切な友人、洋くんに伝えたいと思った。  最近連絡をしていないが、元気だろうか。    あ、そうか……  連絡がないのなら、僕からアクションを起こせばいいのか。  いつも受け身で、待っているだけでは良くないな。  双方が歩み寄ることが、縁を長続きさせる秘訣かもしれない。  そこで、スマホのアラームが鳴ってしまった。 「あの、僕は次の仕事があるので、そろそろ行きます」 「そうか、今日はありがとう。瑞樹くん、おれたちのミモザを守ってくれてありがとう」  大河さんと蓮さんが肩を組んで笑ってくれた。  あなた方の笑顔を見ることが出来て、僕も幸せです。  達成感と共に、僕は次の仕事へと飛び出した。  外を駆け回って、思う存分働こう。  そうして疲れたら羽を休ませるために、家に戻ろう。    宗吾さんと芽生くんがいる場所が、僕のホームだ。 **** 「菫、もうすぐ完成するぞ」 「わぁ、流石先輩、仕事が早いです」 「なぁに、昔取った杵柄さ! アパレル会社では、とにかくスピード重視で鍛えられたよな」  確かに量販店向けの部署では、何もかも流行、スピードで、息苦しかった。  そうか……あの頃の大河先輩は何でもそつなくこなしているようだったけれども、そうではなかったのね。  今、東銀座でテーラーを営む大河先輩には大人の包容力、余裕を感じるわ。  ミシンを前に器用な手つきで作業する様子を、いっくんが目を輝かせて見つめている。 「いっくんも……みたかったなぁ」  見たかった?  過去形で、必死に背伸びしている様子に、胸の奥がズキンとした。  小さないっくんは抱っこが大好きな男の子だった。    私もいっくんを抱っこすると美樹くんを失った寂しさが癒えるので、抱っこするのが大好きだった。でもある日疲れが溜まってぎっくり腰のになり、何度も繰り返してしまい、すっかり抱っこが怖くなった。  でも今は槙を毎日抱っこしても大丈夫。  きっと今ならいっくんをまた抱っこできる。  5歳といっても同年代の子供より一回り小さな身体。  まだまだ小さな子供だもの。 「いっくん、ママがだっこしてあげる」 「でもぉ……」 「大丈夫よ。槙くんで鍛えたから」  いっくんがびっくりした顔で私を見上げている。 「ほんとに?」 「うん! さぁ、おいで」 「でも……」 「大丈夫。信じて」 「うん!」  いっくんが満面の笑みでぴょんと飛びついてきた。  可愛い我が子の温もりに、私も笑顔になった。 「見える?」 「みえるよぅ」  いっくんのにおいがする。  おひさまとはっぱの匂いだわ。 「いっくん、大好きよ」 「ママぁ、いっくんもだいしゅきだよぅ」  そんなやりとりを大河先輩が目を細めて見つめてくれた。 「菫、良かったな。この道を進んで……」 「はい、先輩のお陰で進めました。あの時諦めていたら、いっくんと出逢えていなかったです」 「よーし、いっくんよく見てろよ。最後の仕上げた」 「あい!」  先輩は真新しいファスナーを取り出し、いっくんに見せてくれた。 「わぁ、キラキラしてるよ」 「がんばった子はキラキラしているからな」 「めーくん、きっとよろこぶよ。いっくんもうれちいなぁ」 「君は優しい子だな。普通この位の子供は何でも欲しがるのに」 「いっくんね、かっこいいパパがいるの、ずっとあいたかったんだぁ」  いっくんはいつものように、潤くんのことを話し出した。  いっくんにとって何よりも欲しかったのは、パパだもんね。 「そうだな、いっくんのパパは輝いているよな」 「あい!」 「よし、出来たぞ」  いっくんの言う通り、ファスナーが輝いていた。  「大河先輩の腕、本当にすごいです」 「おいおい、俺はファスナーをつけただけだぞ?」 「でもすごいです」 「サンキュ! 菫は昔から褒め上手だ。俺も菫のお陰で前に進めた部分があるよ」  大河先輩が進んだ道がどこか……  分かるような気がした。  最近の私の周りには似たような空気を醸し出す人が多いから。 **** 「勇大さん、なんだかやることがないわね」 「そうか? そろそろ忙しくなるさ」  勇大さんはまるで予言者のようだわ。  その後、すぐに潤から電話があった。  興奮した嬉しそうな声で、私たちを呼んでくれた。 「父さん、母さん、家が見つかるかも! 一緒に見て欲しいんだ」  

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