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マイ・リトル・スター 8
「ん……あっ……んっ……んっ」
猛るものを深く挿入され、そのまま上下に腰を揺さぶられると、嵐に巻き込まれた小舟のように心許ない心地になった。
でも宗吾さんに掴まっていれば、大丈夫だ。
「宗吾さんっ……」
僕は思いっきり手を広げ、宗吾さんの逞しい背中にしがみついた。
「そうだ、しっかり俺に掴まれ」
「はい」
昨夜は、芽生くんの検査が心配であまり眠れなかった。
芽生くんが患った川崎病は血管の炎症が治まれば予後は良好で、今までと同じように生活できるようになるが、まれに炎症が治まった後に「冠動脈瘤」が作られ、後遺症を引き起こすことがあると退院時に説明された。
冠動脈瘤は、心臓に血液を送り込む「冠動脈」の構造がもろくなり瘤ができる状態で、冠動脈瘤は時間の経過とともに少しずつ小さくなっていくが、発症から1~2年ほど経った後に再び現れることもあるので、退院後数年間は定期検診を受けないとならない。
もしも……瘤が出来てしまったら……
そのことを考え出すと不安で不安で――
心配事が解消された影響なのか、僕の身体はどこもかしこも過敏になっていた。
胸の突起を指先で擦られるだけで、わなわなと身体が震え、舌先で舐められれば、下半身がどんどんはりつめていく。
苦しい程に感じまくっていた。
「可愛いな、こんなになって」
「あ……触らないで下さい。駄目です」
「そんな可愛いことを言って」
「あ……」
首筋に沿って舌で愛撫されると、また身体が震えた。
「今日はどこに触れても感じてくれるんだな。いつもより更に色っぽい顔になってるぞ」
「そんな……」
身体も火照って、顔も真っ赤になっているだろう。
胸元を吸われると、いよいよ我慢できなくなった。
どうして……
平らな男の胸なのに、こんなに感じるのか。
僕はどちらかというと性欲は少なく淡泊な方だと思っていたが、宗吾さんに抱かれるようになってから、変わった。
もちろん一馬とも定期的に身体を重ねたが……ここまで過敏な反応は……
「瑞樹、今は俺だけを見ろ」
「あ……はい」
もう一度ギュッとしがみつくと、宗吾さんに足を左右に開かれ、腰を持ち上げられた。
「は……恥ずかしいです」
「この方がしっかり掴まっていられるだろう」
「あ……っ、うっ……」
前回されたスローセックスとはまた違った興奮を感じる夜だった。
明け方、人工的な光で目が覚めた。
「ん……」
目を凝らすと、少し離れた場所に、宗吾さんの背中が見えた。
パソコンのモニターの光だったのか。
カタカタとキーボードを叩く音がする。
何をしているのだろう?
「あの……」
「おっと、ごめんな。眩しかったか」
「大丈夫です。僕もそろそろ起きます」
「身体は大丈夫か」
「あ……はい」
昨夜、ざっと身体は拭いてもらったようだが、シャワーを浴びた方が良さそうだ。
「ごめんな。俺、興奮しすぎた。瑞樹が感じまくっていたから、つい」
「は……恥ずかしいです。あの、シャワーを」
慌てて起き上がると、宗吾さんにぐいと手を引かれた。
「まだ5時だ。芽生はぐっすり寝ているよ」
「あ……ですが……もう……」
「ははっ、もうしないよ。ちょっとこれを見てくれよ」
「はい」
てっきり朝から……と考えた自分が猛烈に恥ずかしい。
モニターを覗くと、画面一杯に、満天の星が映っていた。
「綺麗ですね。ここは、どこですか」
「軽井沢だよ」
「えっ? 軽井沢でもこんなに沢山の星が見られるのですか。知りませんでした」
「軽井沢は別荘地や住宅地でも、肉眼でそこそこ星を楽しめるが、本格的に星空を眺めたい場合は、木々が空を遮って物足りなく感じるんだよな。だから少し車を走らせて……この月峰高原はどうだ? 国立公園内にある標高約2,000メートルの高原で、軽井沢から車で約50分ほどだ」
流石宗吾さんだ。
僕には、そういう発想はなかった。
芽生くんの希望の「星が綺麗に見える所」は、東京より星が見える軽井沢で充分かと思っていた。
「ここなら標高が高いから空気も澄んでいるし、視界を遮るものもないから、きっと満天の星を見られるぞ。潤の家に1泊して、翌日はこの高原近くのロッジに泊まらないか」
宗吾さんの提案は何から何まで完璧で、心が弾むものだった。
宗吾さんといると、毎日が新鮮だ。
毎日貪欲に生きる人だから、僕にも刺激を受ける。
「宗吾さん、そのスケジュールだと芽生くんは10歳の誕生日は満天の星空の下で迎えるのですね」
「あぁ、そうだ。一足先に誕生日を迎える君と一緒に」
「はい」
僕はもう、宗吾さんと芽生くんの家族の一員だ。
そう胸を張れる言葉を、毎日届けてもらっている。
いつも、いつだって宗吾さんは僕を安心させてくれる。
だから僕はすべてを曝け出せる。
あなたになら――
何度抱かれてもいい。
****
今日は木下と飲みに行く約束をしている。
いつもなら退社後、真っ直ぐは最寄り駅の中目黒で下車し、そのまま芽生くんを放課後スクールまで迎えに行くが、今日は東横線に乗り換えて、渋谷に向かった。
渋谷は、正直あまり得意ではない。
むしろ苦手だ。
空気も人も、僕の身体には馴染まない。
木下が、一生に一度、渋谷で飲んでみたいというので決めたが、既に人に酔いそうだ。
待ち合わせ場所になんとか辿り着いたが、木下はまだ着いていなかった。
大丈夫かな?
5分待っても姿が見えないので、不安になった。
携帯を確認すると、お客様の対応があって15分ほど遅れると……
参ったな。
こんな雑踏の中、あと10分も待つのか。
雑踏の中、息を潜めて待った。
あと5分……
あと4分……
1分がこんなに長いなんて。
居心地の悪さに俯いていると、突然誰かが顔を覗き込んできた。
顔の前に、酒臭い息が漂っって、思わず顔を背けてしまった。
「ねぇねぇ」
相手を確認するために気が進まないが顔を上げると、チャラチャラした出で立ちの若い男性が二人立っていた。
イヤな予感だ。
「……‼」
「やっぱりお兄さん、可愛い顔してんねぇ。スタイルいいから顔も良さそうって思ってたんだ。ねぇ、俺たちと一杯飲まない?」
「いえ……待ち合わせをしていますので」
「つれないこといわないでさー、だって、さっきからずっとそこにいるじゃん。相手にすっぽかされたんじゃない? ねー いこうよ-」
こういう強引な誘いは大っ嫌いだ。
もう何度も克服したはずなのに、また上手く対処出来ないのが、もどかしい。
顔面蒼白になり、息が苦しくなってきた。
黒い闇が押し寄せてくる。
「あれぇ、震えているの? なぁ、無理矢理連れて行けそうだな」
「よし、さー 行こう! 行こう」
見知らぬ男に肩を組まれて、ひゅっと息が止まる。
誰か……誰かっ。
「おい、どこへ連れていくつもりだ」
その瞬間、二人の男性がドカドカやってきて、僕をそいつらから引き戻してくれた。
「チェッ、連れが来たのか。間が悪いな。じゃーな」
そそくさと去って行く男達にほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫だったか」
「無事か」
危機一髪なところで、僕を助けてくれたのは……
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