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マイ・リトル・スター 32

「潤、そろそろ行くよ」 「あぁ、今日はキャンプだったよな」 「そうなんだ。星が見える丘に行ってくるよ」 「綺麗に見えるといいな。気をつけて」 「うん、潤たちの家族のお城を見せてくれてありがとう」  そう告げると、潤は明るく笑ってくれた。 「オレたち『家族の城』か! その表現、兄さんらしくていいな」 「そうかな?」 「兄さん、オレ……頑張ったよ」  潤が素直に甘えてくれるのが擽ったくも、嬉しい。 「うん、潤はよく頑張った」 「へへっ」  一点の曇りもない笑顔。  僕の弟の笑顔は、青空のように爽快だ。 「じゅーん、いつも応援しているよ。離れていても僕たちは兄弟だ。広樹兄さんも一緒に兄弟だよ」  これは、昔だったら絶対に言えない台詞だ。ずっと広樹兄さんと潤の間に割り込んでしまったと負い目を感じていたから。 「兄さん、ありがとう!」 「こちらこそだよ」 「えぇ、もうかえっちゃうの?」  別れ際、いっくんは芽生くんと離れるのが寂しそうだった。  明らかにしょんぼりとした表情を浮かべている。  それに潤がいち早く気付いたようだ。 「いっくん、別れは寂しいよな」 「しょうなの……」 「いっくん、ボクもさみしいよ」 「めーくんも?」 「そうだよ、いっくんと同じ気持ちだよ」  芽生くんも同調する。  こういう所は宗吾さんそっくりで男前だ。 「なるほど! 二人とも寂しいのは、二人がすごく仲良しってことだな。また会えるさ。何度でも会える。会いに行ったり会いに来てもらったりすればいいから簡単だよ」  いいね。  諭したり宥めたりでなく、とても自然な流れで説得力があるよ。  いつの間にか潤は、宗吾さんのような大きな包容力を身につけたようだ。 「しょっか、じゃあ、またいっくんとあそんでね」 「うん! うん! もちろんだよ。約束しよう」 「うん」  二人は大の仲良し。  血の繋がりなどなくとも、心の繋がりで兄弟になれる。  それを僕に教えてくれる。  この別れは、永遠の別れではない。  僕もそう思うよ。 「よし、じゃあ出発するぞ」 「はい」    僕たちの車が見えなくなるまで、潤たちは手を振ってくれた。  名残惜しいな。  角を曲がると、僕も感傷的になってしまった。  いつも楽しいことはあっという間に過ぎてしまう。  あの日も……あの時も。  だが、こんな時はいつも宗吾さんが上手に気分転換してくれる。  とっておきの気分転換の方法を知っている人だから。  明るいBGMをさり気なく流し、余韻に浸らせてくれる。  そっと窓を開けて、新鮮な風を入れてくれる。  心が軽くなる言葉の魔法をかけてくれる。 「瑞樹、芽生、よーし、今日も楽しむぞ」 「はい」 「うん!」 「芽生、ちゃたちゃたも元気か」 「うん、ここでボクと空を見ているよ」 「今夜は、ちゃたちゃたに星空も見せてやろう」 「わぁい」  後部座席で屈託のない笑顔を浮かべる芽生くんは、今日で10歳だ。  生まれた時刻に満天の星を見上げてお祝いしようという宗吾さんの企画に、密かに僕の胸も高鳴っている。  僕の生まれ故郷も星が綺麗に見えたので、誕生日の夜は、お父さんと星空ピクニックをした。色んな星の名前を教えてもらったよ。  今住んでいる東京は物が溢れて便利だが星が殆ど見えないので、時折息苦しくなる。  だから今回、芽生くんが星を見たいと言ってくれて、本当に嬉しかった。  もしかしたら芽生くんと同じくらい、いや、それ以上に僕も期待しているのかもしれないね。  今宵――  満天の星空を、宗吾さんと芽生くんと眺めよう。  僕のお気に入りの星座を教えてあげよう。  もしかしたら流れ星が見えるかも?  その時は、お願い事をしよう。  ずっとずっと一緒にいられますように――  きっと今宵は忘れられない夜になるだろう。  

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