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芽生の誕生日スペシャル『星屑キャンプ』1

 今日は5月5日。  ボク、今日で10さいになったよ!  やったーって飛び起きたのに、胸が痛かったの。  うれしさとドキドキが混ざってヘンな感じ。  どうしたのかな?  いつもだったら、一つ大きくなれたことが、うれしいだけなのに。  昨日、いっくんとずっと一緒にいたせいかな?  お兄ちゃんとして、背伸びして過ごしたせいかな?  数字が二ケタになったからかな?  急に「お兄さん」になった気分。 「芽生くん、10歳おめでとう」 「芽生坊もあと10年で二十歳になるんだな」  スミレさんとジュンくんの言葉に、ますます緊張しちゃった。  ボク、もっとしっかりしなくちゃ。  9さいまでのボクとはバイバイしないとダメなんだね。  これまでの時間と、これからの時間は別なんだ。  まだまだ一杯遊びたいけれど、お勉強も難しくなっていくからがんばらないと。  あと10年で二十歳になるのだから、もう甘えたりしたらダメ。  でも、ちゃんと大人になれるかな?  あーあ、不安と期待で一杯だよ。   「芽生くん、どうしたの? 難しいお顔をして」  あっ、お兄ちゃんに心配かけちゃった。    でもね、お兄ちゃんと約束をしているから素直になろう。  困った時は一人で抱え込まない。 「あのね、10歳っていつものお誕生日と違くて……そうだ、お兄ちゃんは10歳になった時のこと覚えている?」  お兄ちゃんはゆっくりと瞬きをした。 「そうだね……僕が10歳になった日は……」 ****  芽生くんに問われて、封印していた過去の扉が自然に開かれた。  白い光に包まれた懐かしい光景が浮かんでくる。  ここは大沼、緑色の屋根の家だ。  そして子供部屋には、幼い僕がいる。  誕生日の朝、僕は誰よりも早く目覚め、10歳になったことを、ベッドの中で考えていた。 …… 「今日から10歳。ついに二桁になったんだ」  鏡に自分の顔を写すと、昨日とは違って見えた。 「少しお兄さんっぽくなったのかな?」  いつも見ている僕の部屋や窓の外の景色も、違って見えた。 「あら瑞樹、もう起きたの? 早起きね」 「お母さん、おはよう」 「おはよう、お誕生日おめでとう」 「ありがとう」 「瑞樹も、もう10歳なのね。どんどん大きくなっていくのね」 「お母さん……」  僕はお母さんが大好き。  でも10歳になったのだから、大人になっていくのだから、もう甘えてはいけないと思うと、急に怖くなった。 「どうしたの?」 「……なんでもないよ」 「大丈夫。大人になっても、あなたは永遠にお母さんの子供よ」 「ほんとう? 良かった」  うれしい言葉だった。  僕はずっとお母さんの子供でいいんだね。  大人になっても、それは変わらないんだね。 「瑞樹、起きたのか。お誕生日、おめでとう」 「お父さん、ありがとう」 「昨日より頼もしくなったな」 「そうかな?」 「この10年でもっともっと頼もしくなるぞ。二十歳の瑞樹に会えるのが楽しみだ」 「僕もお父さんのような大人になりたいから、がんばるよ」  お父さんは僕のあこがれ。  そのお父さんに近づけるのはうれしいこと。  たくましいお父さんと優しいお母さんからお祝いしてもらうと、心が晴れたよ。  今日は僕だけの特別な日。  これから新しい冒険に出る。  どんなことがあっても乗り越えていこう。  お父さんとお母さんがいてくれるから、きっと乗り越えられる!   ……  それがまさか、五月の終わりに永遠の別れがやってくるとは。  だが10歳までたっぷりと注がれた愛情は、今の僕の礎となっている。  過去を思い出したことで、大切なことに気付けた。 「そうだね、10歳の誕生日は特別だったよ。大人になるのを初めて意識した日だった。実はね、お兄ちゃんは大人になるのが少し怖くて、お母さんに甘えてしまったんだ」 「え……お兄ちゃんもそうだったの」    芽生くんに教えてあげると、急に泣きそう表情になった。 「芽生くんは永遠に僕の可愛い芽生くんだよ」 「ほんと? じゃあ……まだ……甘えてもいい?」 「当たり前だよ。10歳になったからといって、いきなり変わらなくていいんだよ。芽生くんらしく自然に成長していけばいいよ」 「……お兄ちゃんって……だから好き」  僕と芽生くんの会話に静かに耳を傾けていた宗吾さんが、車を停めた。 「ちょうどあそこに展望台があるから、行ってみないか」 「はい! 芽生くん、おいで」  後部座席の扉を開くと、芽生くんが僕にしがみ付いてきた。 「ボク……パパとお兄ちゃんとずっといっしょがいい」 「大丈夫。ずっと一緒だよ。ずっとここにいるよ。一緒に成長していこう!」

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