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しあわせ図鑑 18

 ボクはおばあちゃんとおばさんとあーちゃんと一緒に、お兄ちゃんのお仕事の見学にやってきたよ。 「わー かんらんちゃおっきい、あーちゃん、あれのるー!」 「あーちゃん、あとで行こうね。まずはお兄ちゃんの応援だよ」 「うん!」 「芽生、彩芽、こっちよ」  とてもきれいなホテルに到着したよ。  中に入ると、ガラスの教会の手前で、お兄ちゃんが一歩下がってお花を見つめていた。大きなカメラや照明に囲まれたお兄ちゃんは、とってもかっこよくて、ボクの胸はドキドキした。 「お兄ちゃん、今日、すっごくかっこいい!」  お兄ちゃんがカメラマンさんに何か話しかけられると、ふいに手からハサミが滑り落ち、ガシャンと大きな音を立てた。  その音に周りがざわつき、心配になった。  何かあったのかも! 「お兄ちゃん……!」  思わず駆け出そうとすると、おばあちゃんに止められた。 「ちょっと待って、芽生。今、瑞樹は自分と戦っているみたいだから、もう少しだけ見守ってみましょう」  その意味がわからなくて、小さな声で抗議した。 「えー どうして? だってお兄ちゃん、真っ青だよ! 早く助けてあげないと!」  おばあちゃんは動かず、お兄ちゃんと新しく来たカメラマンさんの様子をじっと見つめていた。ボクはもどかしくて、足踏みをしながら心の中で叫んだ。 「お兄ちゃん、痛くない? 怖くない? 僕が早く助けてあげたいのに……!」  すると最初のカメラマンさんはすごい勢いで教会から出て行ってしまった。    そのタイミングで、おばあちゃんが優しく微笑み、そっと背中を押してくれた。 「さぁ、行ってらっしゃい。今がチャンスよ」 「でも……大丈夫かな」 「勇気を出して」 「うん!」  ボクはお兄ちゃんの元に走り寄って、床に落ちたハサミを拾ってあげたよ。 「お兄ちゃん、大丈夫だよ。何があっても大丈夫だよ」 「ありがとう、芽生くん!」    でも少し不安になったよ。 「あのね、ボク、おじゃまだった? お仕事の邪魔しちゃったかも」  不安になって恐る恐るお兄ちゃんを見上げると、優しく微笑んでくれた。 「とんでもないよ。すごくうれしかった」  お兄ちゃんの声は小さかったけれど、心の底から喜んでくれているのが伝わった。だからボクの胸はじんわり熱くなり、自然と笑顔がこぼれた。思わず「やった!」と小さくガッツポーズをしたよ。 「おそくなってごめんね」 「いや、むしろ……いいタイミングで助けてくれてありがとう。おかげで気持ちをスッキリ切り替えられたよ」  そっか、おばあちゃんはこれを言いたかったんだね。  おばあちゃんの元に戻ると、笑顔で迎えてくれた。 「芽生、えらかったわね。今日みたいな時はね、ただ真っ先に助ければいいのではなく、相手が自分で立ち上がろうとしている瞬間を見極めることも大事なのよ。早すぎると相手の成長のチャンスを奪ってしまうし、遅すぎると本当に困ってしまうから、タイミングが大事なの。いい経験になったわね」  ボクは少し大人になった気がした。  助ける勇気だけじゃなく、見守る勇気も必要なんだ。  小さな成長の瞬間を、そっとかみしめた。  これからも、お兄ちゃんや大事な人たちを助けるときは、焦らず、勇気を出すタイミングをちゃんと考えられたらいいな。  お兄ちゃん、もう大丈夫だね。  自信を持って胸をはって、作業している。  カメラマンさんもやさしい目をしているし、お兄ちゃんの動きは迷いがなくてかっこいい。  どんどん教会が百合の花で埋め尽くされていくよ。  花嫁さんはいないのに、白いドレスが舞うようにロマンチックだね。  教会の清らかな鐘の音が聞こえるような、爽やかな風が吹いているような、お兄ちゃんだけが生み出す世界が出来上がってきた。 「お兄ちゃんはお花の妖精なのかも。幸せな場所をつくる天才だね」  ボクの『しあわせ図鑑』の最初のページには、お兄ちゃんのことを書くよ。  大好きなお兄ちゃんが魔法のように空間を変えること、お兄ちゃんがお花を生ける姿のかっこいいこと、いっぱい書きたいな。

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