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しあわせ図鑑 51
宗吾くんが瑞樹の頬に触れて、当たり前のように軽くキスをした。
へぇ、やるな。
瑞樹が「も、宗吾さん……!」と顔を真っ赤にして固まる様子を、俺とさっちゃんは、愛し合っているものが織りなす微笑ましい光景として見守った。
「ははっ、相変わらずだなあの子らは」
俺が目尻を下げて笑うと、さっちゃんも嬉しそうだ。
「瑞樹が幸せそうだと、こっちまで嬉しくなるわね」
目を細めて微笑む様子に、瑞樹を引き取ってから、小さな体と傷ついた心をおろおろと見守った辛い日々を思い返しているのだろう。
さっちゃんが引き取ってくれて本当に良かった。俺がその場にいられなかったことは後悔の嵐だが、もう過去に引きずられるのはやめたんだ。
今できることがあるのなら、それに全力を注ごう。
こうやって瑞樹が帰る家となり、瑞樹の家族をまるごと愛していこう。
「勇大さん……人見知りで内気だった男の子が今では、恋人の前で照れて笑う明るいせ青年になったのね」
俺も同感だと深く頷く。
「宗吾くんはいい男だよな。あんなふうに俺たちの子を大事にしてくれて、ありがたいよ。そして瑞樹を男としてちゃんと見てくれるのもいい。瑞樹はそういう相手に巡り合えて、本当によかった」
俺たちはこの先も、この家族が困っている時はすぐに手をさしのべ、幸せな時は暖かく見守っていく。
まるで家の中にひとつの灯りがともっているようだ。
かつて大樹さんの家にあった灯りと同じだ。
****
そして午後。
皆で車に乗って、瑞樹の実両親と弟が眠る大沼の寺へ向かった。
俺がこの地を訪れるのは二度目だ。前に来た時はまだ瑞樹の心の奥に、触れると疼きだしそうな悲しみが残っていたように感じた。
けれど今日の瑞樹は違う。
「あ、これって……あの日託したハナミズキですよね」
「あぁ、ちゃんと大きくなったな」
「はい、しっかり根付いていますね、よかった」
墓地を見守るように植えてもらったハナミズキは、真夏の太陽を浴びて、俺たちを待ってくれていた。
以前よりも大きく逞しくなった木にはみずみずしい葉が茂り、風が葉を揺らすと、影がきらきらと揺れて、悲しみを解放しているようにも見えた。
瑞樹はゆっくりと両親と弟の墓標に近づき、しゃがみ込んだ。そして胸の前で手を合わせ、そっと目を閉じた。
「……お父さん、お母さん」
声は小さかったけれど、空気を震わせるように澄んでいた。
「僕は今、毎日がとても幸せです。生きるのが苦しくて仕方なかった時期もあったけど、今は前を向いて歩けるようになりました」
瑞樹の肩が、細かく震えている。
「宗吾さんも、芽生くんも……みんな僕を大事にしてくれます。だから僕も、一緒に前を向いて生きられるようになったんです」
そう告げた後、胸の奥から温かさがにじんでくるような顔で、俺を見つめた。
「宗吾さん、ここも変わりましたね、あの頃のままじゃないんですね。悲しみだけの場所じゃなくなって……希望の光があるというか……」
その言葉に誘われるように、優しい風が天空から吹いてくる。
瑞樹の頬をなで、
まるで「よく頑張ったね」と囁くように――
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