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第1話
「引っ越しするとしたら、諭……金ある?」
「言っている意味がわからないよ」
僕たちは痛感する。こんなに明確なのに、互いにわからない振りをして答えを先延ばしにしている。時間を惜しむように伸ばした腕はもうない。目覚めを促す口づけもない。ベッドが一つしかないから一緒に寝ている。
わかっている、ソファにだって寝られるし、最悪床に寝ることもホテルに泊まる選択肢もある。でも、毎晩同じベッドに潜り込む。
もしかしたら、オヤスミと言ってくれるかもしれない、言えるかもしれない。でも僕らは何も言わずに背を向けて同じベッドに入る。
「無理だと思うなら、それでいいんだぞ?」
そんな風にいわなくたっていいのに。
唯一無二の存在だと互いに想いあって、それが続くと信じて疑わなかったのに。絶対なんてないことを、そして互いに別の人間だと実感してしまった。「長い春」と男女間にいわれる言葉があるけれど、僕達にはそれすらも当てはまらない。
恭治が寝入った頃を見計らってベッドに入るのに、朝は公平にやってくる。僕は堪らずベッドからでた。最悪の朝。確かに恭治の言う通り「無理」がそこまで近づいてきている。僕達の時間は終わりに向かっていた。
「きよはる?」
僕の問いかけに返事はない。この名前は僕に暖かさをくれるものだったのに、今は胸が沈む。僕達はもう互いに気がついている。これだけすれ違ってしまったら、もうどうしようもないことを。「別れる」この一言だけがいえないだけだということを。
先延ばしにしてもいいことはない。でも僕達の6年は長くて重いものだ。とても大切な時間だったことを実感しているから終わらせることに抵抗がある。
君を愛していた僕はどこにいったんだと思う?僕を好きだった恭治はどこにいったんだろうね。
些細な出来事が、僕の目と心を曇らせることになって、恭治に向き合えなくなった。そう、小さな出来事……そしてそれは恭治と僕を守るはずだったのに、実際は二人の絆を崩してしまうことになった。自分の選択が、重く圧し掛かっている。
仕事に行くために家を出るしかなかった。朝食を一緒に食べない、初めての朝。
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