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第2話
部屋の明かりがないのに、いるはずのない存在を期待してドアを開ける。外から見たままで部屋の中には誰もいない。
自分だけの空間になった場所に足を踏み入れて3日になる。恭治は此処に帰ってこなくなった。連絡もなかったし、僕もしなかった。君は此処以外にも帰る場所があったのかな?
悔しさよりも少だけ勝るのは安堵。自分の心配だけで済むし、そのほうが気が楽だった。
引っ越すとしたら、この部屋にあるものはどうやって折半したらいいのだろう。二人で選んだ沢山のもの。クッションみたいな小さいものから冷蔵庫やベッドみたいに大きなものまで、何から何まで恭治と僕のものだ。僕だけのものなんて少ししかない。服や歯ブラシ、靴。
僕だけが悩むのは違うよね。きちんと話し合う必要がある。逃げるのは許せない、そうだよね?狂ってしまったネジを元に戻すのか、戻せないのか、話をするべきだよね、恭治。
僕は携帯を手にして恭治に電話をかけた。
『もしもし?』
電話から聞こえたのは女性の声。
「あ、あの、僕……垣内と申しますが」
『さとし……さん?』
「いえ、ユウです」
『ゆう……くん』
この人誰?なんで恭治の携帯に?僕の名前を知らない相手は、何の権利があって恭治の電話に勝手にでているんだろう。突きあげる感情をのみこむ為に深く息を吸い込み動揺をやり過ごす。
「あの、恭治、恭治さんはいますか?」
『いますけど。電話にはでられません』
意味がわからない!どういうことなんだ?頭に血が昇る。僕からの電話なんだから出るべきだろ、恭治!次の瞬間、僕の熱は一気に冷めた。
『恭治は……病院です。目を覚まさないの」
恭治?どういうこと?目を覚まさないって何?……病院って?
『3日前事故にあって眠ったままで』
恭治が目を覚まさない?意味がわからない。病院?事故?
「今、どこですか!僕これから行きます!」
『もう面会時間は終わっていますから』
時計を見るともう0:00を回っている。面会どころか知らない人と話すことだって十分失礼な時間だった。暴れそうな気持ちを抑え込み何とか病院の場所を聞いた。
自分が名前しか名乗っていないこと、電話にでた相手が誰なのか確かめてもいないことに後から気がついた。
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