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夢のはじまり

 真冬の氷雪のような美しいたてがみに触れる。 ふわふわとした感触にまつげを震わせるエイノの陶然とした表情は、劣情に身を任せるオメガを連想させた。  そっと握りしめたひと房の白糸にキスを落とすと、頭上から彼が吐息だけで笑う。 「まるで女神にでもなった気分だな」   こんな場面だというのに発情しながらも上品な微笑を浮かべる彼は、つい数十分前まで白く輝くたてがみをひとつに束ね、隙のない清潔さに身を包んでいた。  貴公子然とした姿を前に内心では心臓が破裂しそうなほど緊張したが、決死の覚悟で声をかけ、こうして結んだたてがみをほどくことを許されたのだから後悔などない。 「だって、あなたみたいな色男に抱いてもらえるんだから、感謝したくなったっておかしなことではないでしょう?」  呼吸を乱しながら彼の首筋に顔をすり寄せると、大きな手があごをつかみ、エイノの顔をクイと上向かせた。 「レオ、だろう?」 「レオ……んっ……」  触れそうな距離で囁かれた直後、薄い唇が降ってきてエイノのそれに重なった。華奢な肩を抱きよせられ、甘噛みされただけで、体中を電流がびりびりと駆け抜ける。  レオニード……その名はずっと前から知っていた。レオニード本人から愛称で呼ぶ許可を与えられたことが嬉しくてたまらない。  ――レオ、たった一度だけでもあなたと愛し合えるなんて嘘みたい。  はじめて彼を見たその日から、ずっとずっとこの瞬間を待っていた。 たとえ嘘で塗り固めた一夜だとしても、数時間後には失ってしまう繋がりだとしても、きっと一生忘れられない夜になる。  エイノはそう確信していた。

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