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覚悟の夜 01

 * * *  ――やった! やった! やっと手に入れた!  エイノはそこら中スキップしてまわりたいほど興奮していた。  普段は治安の悪い場所に足を踏み入れることはないのだが、どうしても手に入れたいものがあった。 それは疑似オメガフェロモン誘引剤――通称ハル。違法ドラッグだ。  他の薬物であれば、インターネットを駆使して入手することもできただろう。 しかし、まだ出回りはじめて日の浅いハルは、椅子に座ったまま手に入れられるほど普及してはいなかった。  ハルの効能は、オメガ以外の者でもまるで発情期のように強力なフェロモンを発することができ、オメガが使用すれば通常時でも発情(ヒート)を誘発できる。 どちらも強制的にアルファを興奮(ラット)状態へと追い込むため、人権的な観点から違法とされているが、セックスドラッグとして人気が高く、上流階級から下層階級まで密かに高値で売買されていた。  そしてエイノも例に漏れず、人権を侵害する目的でハルを買ったのだから、どんなことが待ち受けていたとしても受け止めなければならない。  歓楽街の外れにある薄汚い路地を見わたす。 道端には客を探す娼婦や、一般人を装う売人がうろうろしていた。 ここでは当たり前の光景だろうが、エイノにとってはまったくなじみがない。  浮かれてばかりもいられず、たった今手に入れた小さな袋をポケットに突っ込んで、サッときびすを返した。  次に向かうのはここからそう遠くない場所だ。 腕時計を確認しながら足早にストリートを駆け抜ける。

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