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覚悟の夜 02
無事に歓楽街を抜け、目的の場所にたどり着く前に服を着替えた。
クローゼットにかけてあった衣服の中で一番高価なものを身につけ、髪型もきちんと整える。
もちろんポケットのハルを入れ替えるのも忘れない。
ショーウィンドウに映った自分の姿を見て、エイノは小さくほほ笑んだ。
(うん。これならそれなりの家の子息に見える)
高揚する気持ちを抑えきれないまま目的地のすぐそばまでやってくると、白く重厚な建物が石畳の先にそびえ立ち、入り口横には見知った顔が立っていた。
「やあエイノ!」
「こんばんはシモ。今日は呼んでくれてありがとう」
シモは片手を上げ、天使のような愛らしい笑顔でにこにことほほ笑む。
ほとんど白に近い金髪が彼の魅力を一層引き立てていた。
「今日は彼が顔を出すって噂だから、楽しみだね」
「うん!」
あの人に会えると思うだけで、エイノの心臓はドクドクと早鐘を打ち始める。
彼と呼ばれたのはこの辺りでは珍しいハイブリッド種の獣人、レオニードのことだ。
エイノが恋い焦がれてやまない相手であり、罪を犯してでもハルを求める動機となった男である。
「レオニードさんはマッチング系のパーティーにはあまり興味がないらしいんだけど、フォードルがしつこく誘ったから来てくれることになったんだって。あんなに憧れてたんだもん。なんとしてでもチャンスをものにしなくちゃ!」
フォードルというのは確かシモの元学友だ。
おそらく激励のつもりで背中を叩いた彼の手つきはエイノから見ればとても品のある仕草で、じわりと劣等感が湧き上がる。
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