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 それから五年。大学二年になった。  比呂のことは忘れたくても忘れられなかったけれど、彼女は何度か作っていた。そう……世の中で言う“フツウ”な日々を過ごしている。    そんなある日、俺はふとケーキが食べたくなって最近できた近所のケーキ屋に寄った。店内に入るとケーキの甘い香りが漂ってきて幸せな気持ちになる。  ショーケースに並べられた様々なケーキたち。  どれも美味しそう……。あ、ひよこの形のチーズケーキがあるじゃん。これにしよう。 「いらっしゃいませ」 「このひよこのチーズケーキを一つくださ……え?」  ショーケースから店員に視線を移すと、五年前から随分と成長した比呂がいた。思いがけない事態に思わず逃げたくなったけど、他にも客や店員がいたから思い留まった。  そして、比呂はケーキを落としそうになっていて他の店員に注意されていた。 「トモく、ん……」 「……久しぶりじゃん」 「うん……」  それ以上はお互いに何も話せなくて、俺は会計を済ませて店を出た。  俺に気づいたときの比呂の表情を見て、まだ俺のことが好きなんだって気付いた。だから俺が店を出るときに涙目だったことには気づかないフリをした。  だってムリじゃん。言い逃げされたし、もし付き合うにしても男同士だから“フツウ”じゃないし。  家に帰ってチーズケーキを食べるとき雨漏りがとても酷くて、それがチーズケーキにかかるもんだから、チーズケーキの味がよく分からなかった。  ……楽しみにしていたのに最悪だ。

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