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第1話 トイレで告白
8月の終わりだか、芙蓉学園は2学期が始まっていた。
僕は2学期最初の生徒会長親衛隊の集会に参加した帰りに、トイレにいった。
用を足したあと手を洗っていたら、いきなり腕をつかまれ抱きつかれた。
「えっ、なに?」
「間宮 っ……」
僕の名前を呼ばれて、抱きついている相手がわかった。
1学年上の高橋 先輩。
僕と同じ生徒会長の親衛隊員だ。
芙蓉 学園高等部現生徒会長は、僕と同級生で1年生の三浦陽二 様だ。
「ちょ……やめっ」
僕はトイレの入口で、後ろから羽交い締めにされた。
「間宮、好きだっ!」
こんな場所でこんな状況で告白されても、ぜんぜん嬉しくないっ!
「間宮っ、間宮……」
僕の首筋に顔をうずめてくる高橋先輩。
息が首にかかって気持ち悪い。
「先輩、三浦様が好きなんでしょ?」
「いまは間宮の方が好き。誰にもさわらせたくないっ!」
なに、この熱烈な告白?
仲良くしてくれる親衛隊の先輩。
そのくらいしか、高橋先輩にたいして思い入れがない。
166センチの僕より先輩は少し背が高いから、抱き込められてしまっていた。
「間宮、間宮、間宮っ、間宮ぁ、間宮あぁ」
ずっと僕の名前を連呼する先輩。
しつこい、っていうか暑苦しい。
実際、暑いし。
8月の終わりの放課後の西日が入ってくるトイレ。
長居する場所じゃない。
教室内は常に空調が調整されていて快適に過ごせるが、それ以外は季節相応の気温と湿度があった。
「先輩の気持ちはわかりましたから、少し放れてくれませんか?」
先輩の腕に自分の手をそえて、お願いしてみた。
水道出しっぱなしだよ。
エコだよ、エコ。
他では水不足に悩まされる自治体もあるのに。
まずは、水、止めたいな。
「嫌だ。放さない」
と、先輩。
「まずは水道止めないと」
「じゃあ、おれと付き合ってくれる?」
……もう、水、止めなくてもよいよ。
「ごめんなさい。僕、先輩のことまだなにもしらないので」
「なんで? いつも話してるし、笑ってくれるのに?」
ふつう、話すし、笑顔くらいみせるでしょうが。
世間をシャットアウトして一匹狼、もとい、ぼっちでいるほどのスキルは持ち合わせていない。
群れて馴染んでひっそりと過ごしていくのが、平凡な僕の学園での過ごし方だ。
「本当にごめんなさい。三浦様が好きなので、誰とも交際はしません」
「会長に取られてくないっ!」
先輩は力強く、抱き締めてくる。
思ったより、力強いな、この人。
感情が高ぶってて、聞く耳もたない感じ?
僕みたいな平凡に振られるなんて思っていなかったのか、かなり、しつこい。
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