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最中の「イヤ」は、「キモチイイ」

 これを最初から見せられていたら、絶対に離れようとは思わなかっただろう。豪も俺のことを好きに違いないって錯覚させるくらいエロすぎて、どうやっても手放せない。  名前を囁きながら、合間にまた耳を虐める。まだびくびくしていたものの、もうすっかり豪の体から力が抜けてしまっていた。脱力しているというか。  ここにきて、もう豪とセックスするつもりじゃなかったから、ローションを用意していないことに気付いた。調味料を揃えたときにオリーブオイルも買ったから、あれでいいか。  起きあがって部屋を出る。ワンルームの時と違って全てが独立した部屋になっているから、キッチンのシンク下を漁って、エキストラより若干安かったピュアの方を手にして洋間に戻ると、仰向けになった豪が、不安そうに瞳を揺らしていた。 「琉真」  ベッドに腰を下ろした俺を見上げて、着たままの部屋着の袖口をくいくい引く。くっそ可愛い。なんだこれ、本当に豪なのか。 「し、しねえの?」  服すら脱いでいない俺にイかされそうになったのが屈辱なのか、自分の欲しい物がもらえそうになくて不安なのか。ここまでやられて精液もらえないんじゃ、やられ損だもんな。  心細そうにして、可哀想に。って、してんの俺だけど。  心の中でセルフ突っ込みして、でもこんな心許ない様子の豪が、幼稚園の頃以来のように新鮮で、意地悪したくなる。  ゆっくりと夏掛けをたぐり寄せて豪の胸元に放ると、豪が顔を歪めた。  あ、泣きそう。可愛い。 「寒いだろ」  思い出してエアコンの設定温度を推奨値まで上げる。視線を戻すと、さっきまでとは別の震え方で俺を見つめている豪がいた。 「あっためてくれたらいいだろ、琉真が」  縋り付くような声音に心が震える。誤解するだろ、そんな風にされたら。  俺は――恋人じゃないのに。  瓶に気付く余裕もないのか、ガーゼの掛け布団をぎゅっと握りしめて、必死な顔で見つめられている。いい気分。  瓶をベッドの下に忍ばせて、俺は着衣のまま、豪の隣に寝ころんだ。 「わかった。じゃあ、こうやって寝よう」  ヘッドボードのリモコンでシーリングライトを一番暗くして、背中から豪を抱き締める。不安そうにしている肩に唇を寄せて、いっぱいいっぱいのムスコよ、まだ待機だ。  不思議なもので、昼間の忙しさも手伝ってか、とろんと眠気が襲ってくる。意識はまだあるけど、呼吸が寝息に近いものへと変わっていくのが判る。  ああ、もうこのままでもいいかも。 「琉真? えっ、嘘だろ」  抑えた声が動転していて、腕の中で身じろぐのを逃がさないと力を込めた。 「ふざけんなよ、りゅうっ」  力仕事なら俺の方がやってるから、豪は逃れられない。けど、あまりにももがかれて眼が冴えてきて、首筋に吸い付くとようやく豪がおとなしくなった。  今のじゃ跡は付かないかな。もう一度きつめに吸うと、豪が首を振った。 「やっ、琉真。駄目」 「どっちなんだよ」  わざと不機嫌を装って唸ると、また豪が静かになる。面白い。痕は付けられたくないけど、挿入はして欲しい。葛藤が目に見えるようだ。  さて、どっちをとるんだろうなあ。なんてな、勿論、ここまできて止められないだろ。  両手でまさぐり、爪の先で乳首を掻いた。息を飲む豪の気配に気を良くして、指の腹で乳輪をなぞる。くるくると続けて、硬くなった先端を弾いて、押しつぶして。ここもくすぐったいのか、なにも感じないのか、豪の反応を窺う。あまり変わらないってことは、性感帯じゃないのかと思っていたら、どうやら唇を噛みしめていたらしい。矛先を変えようと指で唇を割ったら、熱くて甘い声がこぼれてきた。  声が恥ずかしいのか、俺の指を口に含んで舌を絡めてくる。そっちの方がよっぽどいやらしいんだけど。  ぐいぐいと腰を押しつけられて、服越しに割れ目を攻めているムスコがマックスの臨戦態勢。バレてるのは仕方ないけど、煽りすぎ。絡められているのは指なのに、俺も俺もと主張しているムスコがされている気分だ。  お互いに不毛な焦らしプレイはそろそろ終わろう。手を下げていくと豪の逸物もすっかり高ぶっていて、先走りと豪自身の唾液を絡めて、左手で擦るとたちまちそそり立った。 「んふっ、ぅ、早くぅ……っ」  右手をねぶりながら、豪が懇願する。イキたくて仕方ないという腰の動きに、俺は体を起こして豪の体を仰向けにした。  膝立ちで豪の足を割り、改めて豪を見下ろす。薄いブルーのシーツに散る少し長めの黒髪。僅かに開いた唇から顎にかけて、自らの唾液が道を作っている。とろんと見上げている眼差しには、いつもの傲岸不遜な色はなく、これからの行為への期待と情欲だけが見える。喉にはひとつだけ鬱血痕。痺れるくらいの幸福感が、俺を震わせた。  屈むのに合わせて、豪の視線も下がる。それを意識したまま、俺は豪のものに舌を這わせた。 「――ッ」  反射的に制止の声を上げようとしたのを、視線でいなす。させないならここで終わり。眼だけで降伏させると、豪の腰の下に丸めた掛け布団をあてがい、されている方にとっては苦しい姿勢に持ち込んでいく。  蟻の門渡りから袋を舐め上げ、じわじわと下から辿る。鈴口から溢れた滴が竿を伝い、それを見せつけるように舐め取ると、ぴくんと腰が跳ねた。  更に下にある窄まりが、口を緩めて待っている。そこを放置したまま、自分がされて嬉しいように、豪を慰め続けた。 「りゅうッ、イく、」  何度も名を呼んだ後、とうとう豪は吐精した。頭の横でぎゅっとシーツを握り込み、俺が抱えたままの白い太股が痙攣している。  荒い息の豪を抱えたまま、口から喉奥へと放たれたものを嚥下すると、俺は片手でそっと瓶を手繰り寄せた。  新品のそれを開けると、手のひらに出してみる。じんわり温かく感じるのは気のせいだろうか。ローションみたいに冷たくないから、これならびっくりさせないかもしれない。  指に絡めて、豪の呼吸に合わせてちょっぴり収縮している窄まりに中指を当てる。当然、慣れている豪はそこを緩めるから、襞を伸ばしながら入り口を解した。 「ぁっ……いつもと、ちが……」  本当にまだ入り口を解しているだけ。関節一つ分、指一本でぐちぐちといやらしい音を立てているだけなのに、豪は全身を火照らせて、腰をくねらせている。  いつもだってちゃんと解しているのに不思議だ。  更にオイルを足し、ぬるりと二本目の指を差し込む。今度は襞を伸ばして外側に引っ張って伸ばすための動きだ。  薄桃色の入り口から、赤く熟れた中がちらちらと見えて、エアコンで冷えた空気が入っていくのはどんな気分なんだろうと思ってしまう。 「冷たくないか、豪」  指を動かしながら、太股をちゅうっと吸うと、豪の腰が跳ねた。 「やぁっ、んぁっ」  行為の最中の「いや」は「気持ちいい」だと解釈している俺は、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて吸いまくった。ついでにたっぷりと唾液を塗り付けながら舌を這わせる。豪は全身をわななかせて、息も絶え絶えだ。

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