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逃さないからな
太股、そんなに気持ちいいのか。やっぱり繋がるだけじゃ駄目だなあと、今まで拒絶され続けてきたのを恨めしく思いながら、しつこく吸っては舐め、手のひらで揉み、反対の手では襞を伸ばす作業を続けた。
「りゅ、まぁっ……いい加減にしろぉっ」
呂律が回っていない。へろへろになった豪が言葉だけで怒っている。潤んだ瞳で睨まれても全然怖くねえし、寧ろ下半身にクる。懸命に伸ばしているらしいけど手が届かなくて、腹筋にも力が入らないのか、くたりと敷き布団に体を投げ出している。
「気持ちいいんだろ?」
白い肌に唇をくっつけたまま問うと、むうっと唇を引き結んだ。否定しないってことは、やっぱりイイんじゃないか。
ねっとりと、また陰嚢の裏へと舌を伸ばす。そこからぐるぐると周りを舐めていると、「やだ」と小さく囁く声が耳に届いた。
全ての愛撫を止めて股の間から顔を窺うと、片手で口を覆った豪が、静かに涙を流している。
本気で嫌がってたのか――。
「これ、いや?」
こくんと微かに頷く様子はしおらしい。
考えてみれば当然か。俺は豪が好きだから気持ちよくさせたいし、しっかり前戯してから最終的に中でイきたいけど、別に豪は望んでないんだもんな。
好きにさせてくれなきゃヤらないっていうから譲歩せざるを得なくて、だけど豪だって男だし、目的の為以外に女っぽく扱われるのはイヤなんだろう。
結局挿入しかないのかー。あーあ。
がっかりしているのに、目の前で泣きながら横たわっている豪がエロくて、ムスコは元気なままだった。
最後にアパートでしたときみたいに、もう勢いがつかない。泣くほどイヤなら、なんかもう諦めるしかない気がして、苦笑した。
大分解れたと思うけど、またオイルを足して指も増やす。今度は前立腺にも触れずに、ただ性急に中を広げた。
前でイくことが目的じゃない。気持ちいいことは好きだけど、欲しいのは最後にあるものだけ、か。
――女とヤるときに、下手くそって言われそう。予定はないけど。
ほかの誰かに、勃つことがあるんだろうか。性欲を感じる相手が出来たとして、ちゃんと気持ちよくしてあげられるんだろうか。
豪とヤっていると、その辺りが不安になってしまう。
男だから、好きな相手をイかせたいって欲望はあるものの、いつも俺がイけば豪が満足してしまうから、相手が男であれ女であれ、俺に出来るのか心配だ。まあ、捕らぬ狸のってやつだけど。
豪の望むとおりにキスを止めて、表情を窺いながら、広げるだけ。
くっそつまんねー。
「琉真……?」
腰を跳ねさせる要因がなくなり、豪が肘で体を支えて、上半身をちょっぴり起こす。
あー、キスしたい。口に。
豪が苦しい体勢だと判ってるけど、このまま覆い被さって、口の中を蹂躙したい。それか、唇をはみはみするだけでもいい。唇同士を引っ掛けるようにして、上下に動かして、時々くっつけて。
上気した肌が落ち着くのを読み取りながら、願望は妄想だけで終わらせて、ようやく俺は、自分の先っぽをあてがおうとする。
あ、やべ。萎れかけてる。
しょうがないから、オイルまみれの穴から上へと沿わせるように滑らせて、豪のものへと擦りつける。
「琉真」
もの問いたげな声掛けには応じずに、脳内では、眼下の豪と唾液交換なんかしちゃってるイメージを作って気分を盛り上げていく。
目を閉じれば、ほら。いやらしく腰をくねらせて豪が誘ってる。もっと飲ませてって口を開けて、俺の舌を吸い込みそうなくらいに強く引くんだ。
そろそろ入るかなあ。
まだ半勃ちくらいなので、腰を前後させて、取り敢えずどうにかしてこの危機を乗り越えようとする。
現実の豪にがっかりして諦められそうなのは喜ばしいことだ。けど、今日はどうにかしないと、不能のレッテル貼られそうな気がする。
あー……でもそれでいいのかもしれない。もう出来ないってことになれば、豪も諦めてくれるんじゃね?
そんな風な思い付きが、また動きを止めさせる。
「琉真?」
今度こそはっきりと豪に呼びかけられて、抱えていた足を下ろすと、豪が体を起こした。
目を開けて向かい合うと、涙の跡すら残っていない、もうすっかりいつもの顔色に戻った豪が、まっすぐに見つめてくる。
パチンとプラスチックの蓋を閉めて、瓶を指先で持ち上げて床に下ろす。着衣をずらしただけで覗かせていた股間のものをしまうと、「ごめん」と謝った。
「なんかやっぱ無理みてえ」
「え? 嘘だろ」
「ごめんな」
あんなにノリノリだったのにって思ってるだろうけどさ。やっぱメンタル駄目だと勃つもんも勃たねえわ。
おどおどしている豪をそのままに、キッチンに瓶を片付けてから、クロゼットにある肌掛けをもう一枚引っ張りだした。
いつもの豪なら、今度は自分からフェラしようとするに違いない。されたら勃ちそうな気がするけど、それもそれでなんだかなあって感じだ。自分が即物的すぎることを自覚するのがイヤで、「おやすみ」と言いおいて、隣の和室に入ってしっかりと襖を閉めた。洋室から漂ってくる冷気を遮断することになるから、窓を開けて外の風を入れる。
腕を枕にして横になると、割とあっさりと眠りに落ちていった。
暖かく絡みつく。ねっとりと、執拗に。下腹の疼きの酷さに、ぱちんとシャボン玉が弾けるように覚醒した。
風もなく淀んだ空気がまとわりつく室内で、俺の股間に蠢く影。言わずとしれた豪である。
窓を開けた意味はあまりなかったようで、着ていた衣類は湿っていた。下半身の着衣を下げて、足の間で豪が俺のものを咥えながら、すくい上げるように俺を見つめている。
あんなにやる気をなくしていたムスコが、勝手に臨戦態勢になっていた。背後に手を回した豪は、きっと自分で後ろを解していたんだろう。ちゅぽんと音を立てて口を離すと、薄ぼんやりとした闇の中で、俺の腰をまたいだ。
「豪ッ、やめ――ッ」
口だけの制止は届かず、慣れた仕草でムスコを中へと導くと、体温の低い尻が俺の股の付け根を打った。
「ッはぁ……りゅう、ま」
腹筋に手のひらを乗せる豪を支えるために力を込めると、そこを拠点にして、スクワットするかのように豪が中腰で動き始める。
引き絞られて今にも達してしまいそうだ。
耐えている俺を見つめたまま、嫣然と豪が笑う。ちくしょう、また引きずられてる。なにもかも放り出して、目の前にいる餌を食っておけと、自信に溢れた表情が語っている。
ほんとに、どっちが抱かれているのかわかりゃしない。
「逃がさないからな」
低い唸り声と共に、ぎゅうっと締め付けられて、俺はまた、陥落してしまった。
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