163 / 163

第6章ー20 魔物襲来-2

切羽詰まったメイテからの心話に、キリエが慌てて戻ってみると、明らかにクロスと黒曜、二人の様子がおかしい。 特にクロスのこのユグ量は………。 取りあえず意識はあるようなので、そばまで行き、メイテに抱きかかえられるように座っているクロスの、自身で処理しきれずに暴走しそうなユグを自分の方へと誘導する。 しばらく肩で息をしていたクロスだが、少しずつキリエが暴走ユグを受け取った事により、安定してきた。 落ち着いたのを確認し、キリエが問いかける。 「…何があった?」 「………俺もわからねぇ。さっきまで普通にあいつと手合わせしていたんだが…。 急に体の力が抜けたと思ったら、…次の瞬間には俺の中のユグが急に暴走しだした。」 「ユグの暴走だと……!?」 成人したマルシエ人がユグを暴走させる等、聞いた事がない。  ………リア…。何かあったのか……? 「兄貴…! ……リアに、リアに何かあったのかもしれない!  ……クッ、早く行かねぇと……!!」 まだ苦しそうな息遣いの中、クロスが必死に叫ぶ。 自分たちに異常事態が発生するとしたら、まず“リアに何かあった時”もしくは、リアに何かなくとも、“何らかの形でリアが絡んでいる時”だと考えて間違いない。 ここにいる者全員、リアと自分たちには、それくらい強い絆があると、確信している。 そしてそれはペガサスからも太鼓判を押してもらった位、正しい認識だ。 …それにしてもクロスや黒曜に、ここまで影響が出るほどの事など……。  ……リア。何があったのだ? さて。 時は戻って、カルフィール魔法学校敷地内、ルピタス神殿では。 もちろん、シェラザードとライナーが西の森付近の異常を感じ取っていた。 しかし先日の魔物襲撃以降、万一に備え、学園全体はもちろん、このルピタス神殿の結界は特に念入りに強化したため、彼らにとって“この程度”の魔物は気に留めるほどの事はない。 ある程度の時間が経てば、魔物たちも学園敷地内には入れないのだと理解し、自然とここから去るだろうと思っている。 近隣の街や村にターゲットを変えて襲撃することも十分考えられるが、そこは彼らの知ったことでは無い。 彼らの行動基準は常に、“リアは安全か?”この1点だけなのである。 しいて言うなら、今ここにいないフィランドに対し、わざわざ結界の外に出て、無駄に相手をしてやる等、余計な事はするなよ、と思っている程度だ。 そしてそのフィランドであるが。 学園理事室で、アルフリードが魔物討伐の名乗りをあげ、それをラーセルや理事長達が必死で止めるのをしばらく黙って見ていたのだが、やがて静かに、しかし全員に聞こえるよう口を開いた。 「…話の途中で申し訳ないが、俺はこれで失礼します。 …一刻も早く我が主のもとへ行かなくてはいけませんので。」 それだけ言うと、誰の答えも聞くことなく、理事長室から出て行ったのである。 魔物襲来-2 END

ともだちにシェアしよう!