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2.現在・亮介①
「私もう……、亮介さんとは付き合えない、別れる。すっごく好き、ずっと好き、今でも好き。でも亮介さんは一度も私の方を見なかったでしょ。口では私を好きだって言ってくれて、優しくしてくれたけど、亮介さんはいつも心の中では別の人を見てるから。私もうこれ以上耐えられない……」
目の前で彼女が泣いている。嗚呼またやってしまった。本当に申し訳ないと思う。
告白されたのは半年前だったろうか。優しくて控えめな子、常にオレのことを考えて尽くしてくれてそれが心地よかった。好きになりたいと思ったし好きになる努力もした。でも結局、好意以上の感情が生まれることは無かった。
「すまない」
上辺ではなく心から君が好きだよと言ってあげれたら良かったのに。でもオレの口から出たのは謝罪の言葉だけだった。
「すまない……」
玄関を開けると子供の騒ぐ賑やかな声が聞こえてきた。ああ、また姉貴が来てるんか。
「ただいま」
「よっ、久しぶり!」
「……先月も会ったような気がするんだけど。義兄さんはどうした?」
「あんなヤツ知らん!」
「知らんじゃねぇだろうが……」
そっぽを向いている姉貴にため息をついた。姉貴は、中学からの長い長い付き合いを経て拓也さんと結婚した。住んでる家はごく近所。そして、夫婦喧嘩の度に実家であるここへ帰ってくる。もちろん子連れでだ。もう月恒例行事と言っても良い頻度だったりする。
「んで今度は何?」
「あいつ、香水の匂いプンプンさせながら帰って来たんだぜ。絶対浮気だ」
「接待だったんじゃねぇの? ……ったく、毎回毎回」
「接待であんなに香水の匂いが付くかってんだ。あー腹立つ、今度こそ離婚だ!」
「する気もねぇクセに」
ホントにもう……まったく懲りないよ。でもまあきっと2、3日もすれば帰るだろうけど。毎度毎度義兄さんがニコニコしながら迎えに来るだけでケロッと機嫌が直って帰ってくんだから。ホント恒例行事だよ。だから親も呆れながらほっといてる。今回もきっと義兄さんから親に電話がいってるハズだ。
「そんなことより亮介、せっかくの週末だってのに早く帰ってきて用事も無いんか? 彼女はどうした?」
「いねーよ」
「あれっ、前来たときいるって言ってたよね?」
「……振られた」
「ダサッ!」
「ほっとけ!」
「亮太は長続きしてるのにねぇ」
まったくもうこの人は……。義兄さんと喧嘩した鬱憤をオレで解消しないで欲しいよ。
「亮介、あなたまた振られちゃったの? もう今年で30になるのよ、そろそろ結婚とか考えないとダメじゃない。早く身を固めて親を安心させようって気はないのかしら? やっぱり先日のお見合いの話、断らなきゃよかったわぁ」
姉貴との会話を耳にした母親がやってきた。まったくもって鬱陶しい。
「結婚結婚って煩いなぁ。ほっといてくれよ」
「ちょっと亮介!」
イヤになって自室へ逃げ込んだ。メシは……、まあ1食くらい抜いても死にはしないか。
ここ2~3年だろうか、親が結婚結婚と煩く言うようになったのは。最初は控えめだったが最近は特に煩い。それもきっと亮太の結婚が決まったからなんだろう。弟の方が先に結婚するのは恥ずかしいとかってワケわからん。弟って言ったって1歳しか違わないだろうが。
長男だし出来れば実家にいて欲しいと言われて大学卒業とともに戻って来たが、こう毎回煩く言われるとやはり家を出た方が良いのかもしれないって思う。どうせなら亮太が結婚してここに住めば良いんだ。そしたらあいつらも喜ぶし、亮太も家賃とか出産費用とかの心配をしなくて良いし、友里恵さんも子供の面倒を見てもらいながら仕事出来るし……。
全てを亮太に押し付けるような気がしないでも無いが、デキ婚だってのを考えたら良いアイディアのような気がしてくる。今度亮太に提案してみようか。
「結婚かぁ……」
ひとりつぶやく。
本気で好きになって心から生涯を供にしたいと思った相手はただひとり。
引き出しの奥から小さな箱を取り出してフタを開く。渡したかったモノ、渡そうと思ったモノ、渡す直前に渡せなくなってしまったモノ……。いいかげん未練がましいとは思うものの、どうしても捨てれずに未だに手元においてるコレは、今では呪いのアイテムでもあり心の拠り所でもある。
「オレもいいかげん未練がましいな」
苦笑いと供にそんなセリフが出てしまう。ホント未練がましいぜ。
今度こそ会えるかと期待して参加した同窓会だったけど、残念ながらアイツは参加していなかった。どこにいるのが知りたくて、かつての仲間に聞いてみたが誰も知らないと言う。以前一度だけアイツの実家を訪ねてみたことがあったが、音信不通でどこにいるかも分からないと言われた。
元気なんだろうか?
幸せなんだろうか?
今何をしているんだろうか?
出来ることならもう一度あの笑顔を見たいと思う。
出来ることならもう一度あの声を聞きたいと思う。
出来ることならもう一度……。
「智……」
会いたい。
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