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17.現在・亮介⑤

 久しぶりに智の顔を見ることができた。残念ながら直接ではなく画像でだけど。画像の中の智はふんわりと笑っていた。以前のように屈託なく笑う笑顔ではなかったけれど、それでも智の笑顔を見れて嬉しかったんだ。  智は大学の頃に比べると少しだけ大人びたカンジだった。ちょっぴり男っぽくなったような気もする。そして色気も出てるような。  せっかく貰った大切な画像だ。無くしたら困るので、コピーしてPCにも保存した。これでいつでも智の顔を見れる。どっかの中学生かよってカンジだが、それくらい毎日見ていたいんだ。  信一はいつか智を見れるチャンスをくれると言った。信一はウソは言わない。だからその日が来るのを待ってようと思う。まあ、智と会ってないってウソはついてたけどな。でもそれも必要に迫られたからであって仕方がなかったんだし。  智の画像を貰ったことは姉貴にも知らせた。「私も見たーい!」とデンワの向こうで騒いでたので機会があったら見せてあげようと思う。何だかんだ言って姉貴は智のことを気に入ってたんだよな。そう言えば高校のときに智がオレんちに泊まりにきたら、姉貴は必ずちょっかいを出してたっけ。彼女はオレよりも智のことを弟のように可愛がってたようなカンジだったんだ。なんか久しぶりにそんなことを思い出して、ちょっとだけ笑ってしまった。  あのことを知って以来、オレは初めて笑ったような気がする。そしてやっと前向きな気持ちになれたんだ。  すごいな智。智の笑顔を見ただけでオレは元気になれたよ。  そんなこんなで3週間程経った頃、信一から連絡があった。 「ちょっと会って欲しい人たちがいるんだ」 「人たち?」 「そう。それによって上手くいけば智の顔を見れるかもしれないんだ」 「そうなのか?」 「うん。でも過剰な期待はしないで。まあ会ってみたらわかるから」  どうやらオレは試されるらしいと思った。それでも良い。それで智の顔を見れるなら、オレはどんな試練でも受けようと思う。 「そのときオレは智の近況を聞くことは可能か?」 「聞けると思うよ。と言うか、今ちょっと仕事が忙しいらしいんだ」 「そうか……」  もし智に会えなかったら、また別の画像を貰えればと思った。本当は会いたいさ。でもいつか必ず会える日が来ると信じることにしたんだ。だから、もし今回会わせてもらえなくても、智の画像を貰うだけで頑張れると思った。  ホントは直接顔を見たいけど。目の前で智の笑顔を見たいけど……。  週末、信一に連れて行かれたのは、とある瀟洒なマンションだった。 「えーっと……、ケンスケさん、カイトさん、コウ、タケル。みんな智と仲の良い友達だよ」 「はじめまして、井川亮介といいます」  信一に紹介されたのは皆、智の友人だと言うことだった。タケルって人以外はニコニコしていた。唯一タケルって人だけは射るような目でオレを見ていた。 「一名だけ亮介のこと睨んでるけど気にしないでくれ。こいつ智命だから」 「仕方ないじゃないですか。オレは反対ですから」 「ちなみにコイツ、オレの会社の後輩」  睨んでいたのは信一の会社の後輩だそうだ。よくは分からないが、とりあえず会釈だけはしておいた。初めて会った人たちで、オレはこの人たちのことは全く知らないから。 「亮介くんだったよね。悪いね、知らない人の中に値踏みされるようなカンジでここに来てもらって。ただ全員智くんの事が大好きで大切なんだ。だから皆君に会いたかったんだよ」 「いえ、大丈夫です」  ケンスケさん……だったかな?が、皆を代表してそう言った。きっと智はここにいる皆に大切にされてたんだと思う。 「えーっとね……亮介、亮介と智が別れたときのことは、オレとコウは知っている。と言うか、あのときはオレもコウも本当に智のことを心配してたから。その後タケルも事情を知った。ケンスケさんとカイトさんは知らなかったんだけど、先日オレが教えたんだ。ここにいる皆は本当に智のことが好きで、大切な友人だと思ってるから」 「そうでーっす! だから智ちゃんに会わせる前にオレたちが会ってみたかったんだぁ」  信一の説明にカイトさん……だったかな?が相槌を打っていた。 「オレ……、智に会わせてもらえるんですか?」  智に会える? 会わせてもらえる? 「オレは反対です」 「タケルは私情が入ってるでしょ。気持ちは分かるけど今は却下」 「だってやっと智サン穏やかに笑うようになったのに」 「ごめんね~。セリフからわかると思うけど、タケルは智のことが好きなんだよ」  タケルのセリフにコウって人がフォローを入れていた。  その言葉に思わず笑みが零れた。そうか……、智は皆に愛されてるんだな。ここにいる友人たちは智が寂しくないようにしてくれてたんだな。なんとなくそれが嬉しかった。良かったな、智。 「オレ賛成! 今の顔見て賛成!」 「カイトの意見にオレも賛成だな。亮介くん、智くんに会わせてあげよう。今週は仕事が忙しいらしいんで無理だが来週は休めるそうだ。お膳立てはこちらでするから、そのときまで待っていて欲しい」 「良いんですか?」 「うん、良いと思うよ。君たちは話をした方が良いと思うから」  ケンスケさんの言葉に涙が出るくらい嬉しかった。 「オレさぁ……、智ちゃんにはホントお世話になってんの」 「そうそう、カイトさんはケンスケさんと別れたりケンカしたりする度に智んちへ愚痴りに行ってたんだよ」 「えっ、あの……」  コウさんの言ってる意味がイマイチよくわからない。 「あそっか。ケンスケさんとカイトさんは先日結婚したんだ。まあ同性婚だから法律的なものは無いんだけどね」 「そう、なんですか。おめで、とう…ございます」 「ありがとっ!」  ニッコリ笑ったカイトさんは、とても嬉しそうだった。  そんなワケでオレは智の友人たちの許可も出て、直接会えることになった。  来週が待ち遠しい。  智、やっと智の声が聞けるよ。やっと。

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