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18.これから・智①

 2週間ほど前に受持ちのプロジェクトのひとつが本番を向かえた。それに伴いトラブルがポロポロポロリと……。多少のトラブルは想定内なんだけど、今回は思ったよりも大きくて、収束するまでかなり大変だった。客先でのオレは針のムシロだったよ……。反省会も開いたし、皆も理解したみたいだったから、今後こんなトラブルは発生しないだろうけどね。まあ、システムだから絶対に無いとは言い切れないけど、少なくはなるんじゃないかと思う。  いろいろ大変だけど、プロジェクトが本番を迎える度に達成感があるからオレはこの仕事が好きだ。サブマネージャーなんて地位にいるから売り上げやら何やらいろいろお金にまつわる頭の痛いモノはあるけれど、部下の皆の満足そうな顔を見れただけで嬉しくなってしまう。来週には打ち上げかな? そこらへんはリーダーがやってくれるから、そのうちに声がかかってくるんだろう。  そんなカンジでやっとのんびりできた週末、オレはケンスケさんちに向かっていた。 「ランチのお誘いだよー。皆で集まるから智ちゃんも来てね」  せっかくのカイトさんのお誘いだもの、もちろん行くって答えたよ。カイトさん機嫌良さそうな声だったからケンスケさんと上手くいってるんだなって思った。これならオレんちにあるカイトさんの着替えを返した方が良いかなって思ったんだけど、とりあえず1年は様子見ようかと思い直した。万が一ってこともあるしな。まあ、あのふたりだからケンカはしても別れることはもう絶対無いだろうけど。逆に言うと、ケンカしてオレんちに愚痴りにくる可能性はあるワケだ。 「あれっ、オレ時間間違った? 皆もう来てたの?」  12時半って約束だったんでそれよりちょっと早めに来たんだけど、もう全員が揃ってた。もしかしてオレ約束の時間間違って聞いてたのかな? 「智サーン、オレ智さんのことマジ愛してますからね。覚えててくださいよ」  タケルがオレをギュウって抱きしめながらそう言った。何? 何が何だかわからないんだけど……。 「タケルは今情緒不安定だからね。智は気にしないで良いよー」  そんなタケルをコウが引っぺがしてくれた。情緒不安定って仕事で何かあったのかな? あとで信一にこっそり聞いてみようと思う。 「とりあえずさ、これ食べてくれる? ちょっとランチの時間が遅くなりそうなんだ」  ケンスケさんに渡されたのは小さなサンドイッチ2切れだった。何かよくわかんないけど、せっかくなんで食べておく。うん美味しい。ついでに渡されたジュースも飲みほした。 「よし食べたな。今日はちょっとランチの前にイベントがあるんだ。智はこっちに来てくれるか?」 「何? もしかしてドッキリか何か? オレ何かしたっけ?」 「何もしてないよ。したのはオレたちの方。まあ智は堪能してくれや」  そう言って信一が連れてきたのはとある部屋の前。あれっ、ここってカイトさんの仕事部屋じゃなかったっけ?  余談だけどカイトさんてグラフィックデザイナーなんだって。在宅でも仕事してて、ここはカイトさんの仕事部屋だって紹介されたハズ。 「何? 何なの? 何かオレ、ここ入るの怖いんだけど」  マジで怖いんだけどさ。これって何かのバツゲーム? でもオレ何もしてないと思うんだけどなぁ……。 「怖くないよー。とりあえず智ちゃんは中入ってねぇ。入ったらわかるから」  カイトさんがそう言った途端、ドアが開けられてオレは中に放り込まれた。 「何? 何?」 「智!」  ワケもわからず放り込まれた部屋でオレにかけられた声。その声にオレは瞬時に緊張した。 「なっ……」  目の前には亮介がいた。何年も経ってるけど忘れるワケがない。何故? なんで亮介がここにいるの? 「えっ、何で? 何でドアが開かないの?」 「智ちゃーん、観念してねぇ。当分ここのドアは開かないからねー」  パニックになって逃げ出そうとしたけどドアが開かなかった。ドアの向こうから聞こえるカイトさんの言葉にオレはますます混乱する。 「智……」 「りょ、亮介……、あああ、あの……、ひさし、ぶり……。元気だった?」  もう二度と会わないって約束したのに、だけど目の前に亮介がいる。さっきはパニックになったけど、何とかそれを引っ込めて亮介に挨拶した。そしたら亮介はオレの予想もしなかった行動に出た。 「智、ゴメン! オレ全部知ったんだ。知るまでに何年もかかっちゃったけど、本当に智にはツライ思いをさせたと思う。すまなかった」  目の前で土下座した亮介にオレは再度パニックになりかけた。えっ何? 全部知った? 何を? 「りょ、亮介? とりあえず、顔……上げてくれない?」  どうして良いかわからずそう言った。何で亮介が謝るのかわかんなかったし。突然逃げるようにいなくなったオレの方こそ謝る理由はあるけれど、亮介が謝る理由は無いと思ったんだ。  チラっと見えた、数年ぶりに見た亮介はますます格好良くなっていた。学生の頃より精悍さが増していたような気がする。目の前にある、ずっと会いたかったその顔に涙が出そうになる。でも泣いちゃいけない。オレは無理矢理自分の心にフタをしたんだ。

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