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35.その後・亮介②

 ケンスケさんとカイトさんは普通に食事を終えて帰って行った。余ったおかずは別の小さめの数個のタッパーに分けて入れられ、おにぎりと一緒に冷凍庫に入れられた。 「サラダは今夜にでも食べてね~。おにぎりとおかずは必要なときにチンして食べるんだよぉ」  食事中も特にオレに話をふるワケでもなく、ふたりで他愛ない話をしていた。  そして、ここに来た目的も何も言わず帰って行った。 「何……、だったんだ?」  オレは最後まで呆気にとられたままだった。  翌週、またふたりはやってきた。 「おっ、冷凍庫に入れといたのちゃんと食べたんだねぇ、エライエライ。しかもタッパーも洗ってあるじゃん。ますますエラーイ」  カイトさんはオレが玄関ドアを開けた途端ずかずかと入ってきて、まずは台所へ突進、先週冷凍庫へ入れたものをオレがちゃんと食べたかをチェックしていた。それと同時にケンスケさんはオレの腕を引っ張って風呂場へ……。 「今日こそオレが脱がしてやろうか?」  ニヤっと笑いながら言われたので、慌ててバスタオルを手に取って風呂場へ入りドアを閉めた。浴室乾燥がついているので、風呂場にはタオルや着替えをかけておくスペースくらいはあったりする。 「今日はオレが風呂洗うからなー、ちゃっちゃと洗って出てこいよ」  オレ自身はもう考えること自体を放棄してるので、身体を洗ってヒゲ剃って着替えてそしてカイトさんの出したメシを勧められるまま食う……。カイトさんとケンスケさんは先週同様にオレの家の掃除をして、余ったおかずをタッパーに小分けにしてから冷凍庫に入れて、そしてまた帰っていった。  何故ふたりはこんなことをしてるんだろう?  考えても全くわからないし、でもまだ聞く気力も無かったので、結局この日も疑問に思いつつ終了した。残ったのはスッキリした家の中と冷凍庫の食料……。 「やあやあ今日も来たよぉ」  そして3週目、やはり今日もこのふたりはやってきた。先週先々週と同じようにずかずかと家の中へ入り、先週同様冷凍庫をチェックしていた。 「おっ、今回もちゃんと食べてくれたんだねぇ、エライエライ」 「おし、じゃあ風呂行くか?」 「あ、いや、その、オレもう今日は風呂入ったんで」 「あれっ、そうなの? オレに脱がされるのを楽しみにしてたんじゃなかったのか?」 「えっ、あの……」 「ははは、冗談だ。じゃあダイニング行くか」  さすがに3週目なので今日は先に風呂に入っておいたんだ。きっと今日も来るんじゃないかと思って。毎週風呂場へ連れてかれるって……、どこのガキだよってカンジだよな。 「あの、今更なんですが……、ふたりは何で毎週ここへ来るんですか?」  本当に今更なんだが、ふたりに聞いてみた。 「うーん、特に理由は無いよぉ。強いて言えば来たかったから?」 「ま、そんなとこだな。気にするヒマがあったら食べろ食べろ」  はぐらかされた……んだろうと思う。でもこれ以上何と聞いて良いか分からず、ただ黙ってテーブルの上にあるもの――今日もバラエティ豊かにいろいろ――を食べた。 「あの……」 「ん、なぁに?」 「お金……、お金払います。手間もそうですが材料費もかなりかかってると思うんで」 「いらないよぉ」 「でも……」 「って言うか、お金はねぇ、たっかなしくんから貰ってるから大丈夫」 「たっかな?」 「信一くんだよぉ。説教したついでに巻き上げたの。だから亮介くんは気にしないで良いよぉ」 「あの……」 「カイトの言う通りだ。とりあえず今は気にしないでおけ」  ますます意味がわからない。何故ここで信一の名前が出るのかも、そして何故信一がお金を出したのかも全くもって謎だ。このふたりと話せは話すほど、ワケが分からなくなってくるような気がした。 「あんまり深く考えないで良いよぉ。気にしたら負けだよぉ」 「負けって……」  カイトさんはニコニコしててとても柔らかい雰囲気なんだけど、何故か逆らえるような気がしなかった。怖いとかってのは全く無いにもかかわらず、逆らっちゃいけないって気持ちになるんだ。本当に、自分でも不思議だと思う。それにしても、何故このふたりは毎週オレのところにやってくるんだろう? 結局今週も分からないままだった。  カイトさんの口から信一の名前が出ていたので、その夜オレは信一にデンワをかけてみた。 「スマン! 悪かった! このとぉりっ!」 「…………」 「だから本当に悪かった! オレ、ケンスケさんたちにかなり絞られたんだよぉ」 「いや……、悪いけど言ってる意味が分からないんだが」 「えっそうなの? うーん、じゃあ今んとこ分からないままでいてくれる? とりあえずオレが悪かったって言ってたのだけ覚えといてよ。ってことでさ、今は話すのも禁止って言われてるからさ、また今度、じゃあな!」  あっと言う間にデンワを切られてしまった。信一がオレに何かしたらしい。自分のことなのに『したらしい』って他人事のようになるのがものすごく変だと思う。思うが仕方ない。結局オレは何もわからないまま、狐につままれたまま、今の状況を受け入れるしかないようだ。  オレの周りで何かが起こってる……んだろうか?  ふと、ここ2週間ほど智のことをあまり考えなくなったってことに気がついた。忘れたワケじゃないけれど、以前ほどつらくない。そんなことに気がついて、オレは、もしかしたら、あのふたりに慰められていたのかもしれないってことに思い至った。

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