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元ネタSS集
「春宵一刻値千金」は、SSクイズ桜(https://fujossy.jp/books/10162)に参加した際、正解してくださった方へのお礼&景品という形で進呈したSSが元になっています。以下にその時の元ネタSSを掲載します。
これ以外に「博多編」があります。「春宵」と同じ会社の博多支社という設定です。こちらも近いうち一篇にしたいと思っています。
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☆蜜鳥さま「新人担当の先輩による会社の花見準備」
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新卒で入った会社は花見が恒例で、新人だからと場所取り係を任された。良い場所をゲットするために早朝から出向く。今日の俺は夕方までここにいるのが仕事なのだそうだ。全くくだらない。桜が咲いても朝晩は肌寒いし、今日は風も強い。そんな中、俺は一人ブルーシートの上で時間を潰す。
ようやく日が傾いて、それでも定時まではまだ一時間あるという時に、「お疲れ」という声がして、振り向いたら教育担当の先輩がいた。頼りになる兄貴分、しかも営業成績は全国でもトップクラスという憧れの人だ。
「はいよ」手渡されたのは缶ビール。先輩もシートに座ると、自分のビールをプシュッと開けた。
「フライングですよ」笑いながら俺も開けた。
「いいんだよ、これぐらいの役得」先輩は背後の桜を見上げる。「他に満開の桜もあるのに、どうしてここに?」俺が選んだのは七分咲きほどの桜の近くだ。
「満開の桜は少し離れて見たほうがきれいでしょう? それにここ売店に近いし、トイレの匂いは来ないし、それから」
「社屋が見える」
「はい。ここからが一番よく見えました」
「……おまえ、明日から俺と一緒に外回りな」
「え」
「五年前、俺も同じ理由でこの場所を選んだ」
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まめ太郎さま「嫉妬」
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花見の会場もすっかり夜桜になり、ライトアップまでされはじめた。課長だ部長だと酌して回り、ようやく一段落ついて戻ってくると、先輩の隣には俺の同期の女性がちょこんと座っていた。
……ちょっと待て。そこは俺の席だろ。
飲みさしの缶ビールがまだあるのを確認し「あれ?俺のビールどこだ?」と大げさに探すふり。
「これじゃない?」彼女はその缶を高く掲げるだけで、意地でもどく気はなさそうだ。
当の先輩は苛立つ俺のことなどてんで無視で、彼女に「次は何飲む?」などと聞いている。
「ビール苦くて苦手でぇ、カシスオレンジとか好きなんですけどぉ」俺に対する時より一オクターブ高い声が癇に障るが、先輩はにこやかに相槌を打つ。畜生、やっぱりそうだよな。そりゃ先輩だって女の子のほうが。
「カシオレね。待ってて」先輩は立ち上がる。社から持参したクーラーボックスにそんなものはない。わざわざ買ってきてやる気か。
「俺が行きますよ」あんな女のために先輩が動く必要なんかない。
すると先輩は「さっきのビールも、もうぬるいだろう?」と言って、俺の腕をつかんで一緒に歩きだした。……と思ったら「抜けようぜ。この先に良い店、知ってるんだ」
先輩の指さす方向は並木の夜桜がぼーっと浮き上がって良く見えない。でも、もちろん俺はハイと答えた。桜色のライトアップが、俺の赤面を誤魔化してくれていたらいいんだけど。
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結月みゆさま「年下攻めな甘々禁断」
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自分で言うのもなんだが俺はモテる。営業成績は全国でも良いほうだし、容姿も悪くないからだろう。だが、隙があるのか異性トラブルに常につきまとわれて、新人教育担当になった今年は上から直々に「新人相手に妙な誤解を受ける行為は慎むこと!」と厳命されている。というわけで、今も花見の宴席で馴れ馴れしく迫ってくる新人女性から逃げて、馴染みのバーに避難したところ。
「大人って感じですね。こういう店でさりげなく飲む男、憧れます」
脱出ついでに道連れにした後輩が言う。彼も今年の新人で、どうやら俺になついてくれている。男相手なら「妙な誤解」もないだろう、なんて考えている時に、いきなり手をつかまれてドキリとした。
「先輩、手がきれいですよね。爪も。手入れしてるんですか?」
「ああ、うん。うちの商品って繊細だろ? 大切なものは傷つけないようにしないとね。爪切りや爪磨きはいつも持ち歩いてる」
「爪磨き?」と言いながら、なかなか手を離してくれない後輩。嬉しいけど、距離の近さにドギマギしてしまう。
「男はあまり使わないかな。でも、マニキュアまでするのは抵抗あって」
後輩はまだ手を握っている。それどころか指を絡めてきて、俺を見つめる。……あれ?後輩の目がなんだか艶っぽい。これはヤバイ。何がヤバイって嫌じゃない自分がヤバイ。
「俺も大切な人を傷つけたくないな。ね、先輩?」爪の先を撫でられて、体の奥がキュンと疼く。「俺にもやり方、教えて?」
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かーさま「桜餅食べる」
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桜餅はどっち派ですか?
「関東か関西かって質問なら関西の……こっちで言う、道明寺だな」
いえ、葉っぱも食べるか食べないか、です。
「そっちか。食べないな」
柏餅は?
「……柏の葉は食べられなくない?」
餡子の話です。漉し餡・粒餡・味噌餡。
「ややこしい聞き方するなよ。俺は漉し餡」
へえ。
「そんなに意外?」
粒餡のイメージでした。
「ハハ、なんだよ、それ」
で、そろそろ覚悟は決まりました?
「ああ。好きなようにしろ」
大丈夫ですよ、関東の桜餅みたいに優しく包み込んであげます。
「おいおい、関西流の俺だって優しいだろうが」
優しいっていうか、ねっとりまとわりつきますよね。ま、どっちも美味しくいただくけど。
「生意気言ってると道明寺の餅にするぞ?」
半殺しですか。そんなこと言わずにちゃんと最後まで味わってくださいよ。
「言われなくても葉っぱまで食ってやる」
少しの塩気は甘さを引き立たせますもんね。
「いいから早くしろ」
……先輩、ほんのりピンクになっちゃって、かーわいい。
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yu-chiさま「二人で残業」
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「PCの電源を落とせ」と先輩が言った。もう部屋に残ってるのは先輩と俺だけだ。
「えっ、ちょまっ、まだ報告書できてませんっ」
「今日、水曜だろ?」
「ああ……」
水曜日はノー残業デー。六時が定時で可及的速やかに退社することを推奨されている。否、強要されている。こっそり残ろうにも、七時には完全に電源オフ。非常灯以外の照明すらつかなくなる始末。
「でも、提出、明日の午前なんですよ。無理じゃないですか」俺は頭を抱える。
「それチェックするの、俺だろう? 適当に辻褄合わせておくから問題ないよ」
俺は先輩を見る。先輩は「睨んだ」と思ったかもしれない。「そういうわけには行きません。これは俺の仕事です」だって初めて先輩から独り立ちして任された顧客。これだけは。
「キリキリ焦ったって効率悪いだけだっての」
先輩は俺の背後に立ち、俺の肩越しにキーボードへと手を伸ばしてきた。そんな先輩の、俺の大好きな細く長い指が叩こうとしているのは [Ctrl]+[Alt]+[Del]……
「だっ! 先輩っ! 強制終了って! 待って、保存、保存だけさせてください!」
先輩は中腰になり、俺の耳元で囁いた。「教えてやるから、続きは俺の部屋でやれよ」
そんなこと言って、先輩の部屋に行けばPC立ち上げる気になんかなれないに決まってる。
いつだってそう。
今夜もまた、あなたの[Enter]キーを連打するのかな。
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