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第1話
友人に紹介された、同級生の彼。
『よろしく、お願いします。』
ゆっくり、手話と口パクで俺に言う。
「こちらこそ、よろしく。」
あまり手話がわからない俺は、口の動きを意識しながら、最後にペコリと頭を下げた。
「ゆっくり喋れば読み取ってくれるからさ!仲良くしてやってくれよな!」
友人は俺にそう言った後「友達になれてよかったな」と彼の頭をポンポン撫でる。彼は嬉しそうに微笑んで頷いた。
彼の耳は、完全に聴力が落ちたわけじゃないが、ほとんど聞こえないらしい。そんな彼が、俺と友達になりたいと、俺たちの共通の友人に言ったのがきっかけだった。
「まぁ、面倒じゃなかったら筆談のが助かるかも。」
「いいよ。それくらい面倒じゃないし。」
「サンキュ!じゃあ俺、次講義だから!」
じゃーな!と、友人は俺と彼に手を振って走って行った。
「…あー、えっと…。」
残された俺たちに、シン…と沈黙が訪れる。
「『もう、今日の講義は終わり?』」
カバンにあったスケジュール帳のメモ欄に、そう書いて彼に渡す。すると彼はパッと顔を明るくしてペンを握った。
『終わりだよ。これから帰るところだよ。君は?』
「『俺も終わり!このあと予定ないなら、よかったらなんだけど、少し話さない?』」
このまま帰るのはなんとなく寂しい気がして、近くのカフェに彼を誘うと、目をキラキラさせて頷いてくれた。
「『甘いもの、好き?』」
『好きだよ。』
「『ここのモンブランうまいから、食べてみてよ!』」
一文一文、交互に書き合いながら、色んな話をした。
『今度、また遊んでくれる?』
周りと、なんら変わらない。
「『もちろん!連絡先、教えて!』」
メモ欄の中で、俺たちの声は確かに生きていた。
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