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第2話
「…あ、そうだ。」
彼と別れた帰り道、いつもは寄ることのない本屋に寄った。
「手話の本、買う日が来るなんてなぁ…。」
もっともっと彼と話がしたい。そう思ったら買わずにはいられなかった。
「えーっと、これで『おはよう』…か。」
今日から少しずつ勉強して、一つでも多くの言葉を彼と交わしたい。そう思ったら手話の勉強なんて苦じゃなくて。
「『おはよう』」
「…!」
「えっと…『今日、遊ぼう』」
短くて、簡単な単語ばかりだけど、俺なりに頑張って覚えた。…初めてだから、やっぱり緊張するけど。
「…っ、」
「へ…?っえ!?ど、どうした…!?」
突然ゆらっと瞳を揺らし、涙を溜める彼。
なんの予告もなしに泣き出すもんだから焦りに焦る。
「もしかして間違えてた!?俺変なこと言った!?」
ひぃー!昨日ちょっと勉強したからって、調子乗ってやるんじゃなかったー!!
「『ごめ…、」
『ーーー。』
「…え?」
謝ろうとした時、彼の手が動いたのを見て、思わず自分の動きを止めた。
指先を真っ直ぐに揃えた右手で、左手の甲を軽く叩く。
昨日勉強したから知っている。これは…。
"ありがとう"
頬に伝わる涙が太陽に反射して、キラキラ光る。
「…あ、いや…そんな…。」
『すごく、嬉しい。』
優しい瞳に、俺を映して。
『ありがとう。』
こんなにも綺麗な"声"を持つ彼に、俺は一瞬にして目を奪われた。
「…っ、いや、ほんと…、全然だからっ!」
『そんなことないよ。』
ああ、やばい…、この感じ…。
「っき、君と、ちゃんと、話したくて…っ!」
『うん。』
絶対そうだ。…自覚してしまった。
「練習、した…けど、まだ全然だから…っ、」
今まさに俺は………。
「今日、俺に教えて…。」
彼に、恋をした。
『喜んで!』
-FIN-
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