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第4話

外は相変わらずの雨。カーテンの向こうから聞こえる雨音で、男が黙り込んでいることに気づいた。 「え?もしかしてなんか誤解してる?まさかとは思うけど、俺の初めての相手、あんたじゃないよ?あんたがどんだけオトコ食い散らかしてきたか知らねぇけど、そういうオチは100%(パー)ねぇから!」 『……紛らわしい言い方をするなよ。本気で反省しかけただろうが』 「うわ、最悪。あんたホントに、抱いたオトコの顔も覚えてないタイプのタチか。悪いけど俺の初めての相手はちゃんと真面目につきあってたやつで…… バイクの事故だったよ…… 痴情のもつれで刺されたわけじゃない」 俺の言葉に、幽霊のまわりの空気がピリッと緊張した。 『オレのことを、知ってるのか?』 「ここに入る前に、大家から簡単に聞いた。…… あんた、刺されたんだろ?オトコに」 去年の夏、この部屋の住人は半同棲していた男に刺殺された。ここに居ついている幽霊はその元住人だろうという説明は、事前に受けていたんだ。 『あぁ、まさか死ぬとは思わなかった。あいつも、殺す気で包丁を持ち出したわけじゃなかっただろう。でも、ちゃんと大事にしてやれなかったから、仕方ないな。オレのせいで殺人犯にしちまった…… 悪いことしたと思ってるよ』 自分を殺した相手をそんなふうに言えるのか。 案外、悪いやつじゃないのかもしれない。 「あんたさ、いつまでもこんなとこにいないで、その人がどうしてるのかとか、見に行ってみたら?」 『興味がないな。かわいそうな奴だとは思うが、独占欲が強くて鬱陶しかった。それよりおまえは、なかなかオレの好みだぞ。死ぬ前に出会えてたら抱いてやったのに、残念だったな」 ……前言撤回。こいつは悪い男だ。生きてるうちに遭遇しなくて、本当によかった。 「だからいっつも、見てんのかよ…… 」 『そうだな。他にすることもないし』 「あのなぁ、考えてもみろよ。誰かにずっと見られてるなんて、落ち着かねぇに決まってんだろ?ちょっとは遠慮しろよ、ゆーれいの風上にも置けねぇ奴だな」 『近くで見ろって言ったのは自分だろう?ほら、しゃべってないで、もっとよく見せろ』 男はスーッと下の方に回り込んで、俺の脚の間を至近距離からじっと見た。 『いやらしいケツ穴だな、こんなに開いて、ひくついてるぞ?』 やつの身体は脚の方にあるのに、声はまるで耳元で囁いているように聞こえる。辱めるためのセリフだとわかっていても、背筋を這い上るぞくぞくした快感に、ちんこが揺れた。 『おい、透明なディルドはないのか。これじゃあ、淫乱な中の肉があまり見えない』 ディルドを変えさせようとする幽霊に、キリンが鋭い威嚇の声をあげて牙を剥いた。尻尾の毛まで逆立てて、今にも飛びかかりそうに頭を下げている。 「悪いけど、これで我慢してくれ。これ、こいつのお気に入りなんだ」 『なんなんだよこの毛玉は。おまえが寝てる間も、ずっと威嚇されてるんだぞこっちは』 …… それは知らなかった。 ここに引っ越してからやけによく寝るなと思っていたら、俺が寝てるときは起きてたのか。雨続きで探検にも行けないし、ふて寝してるのかと思ってたのに。 「キリン…… 」 毛の逆立った背中を撫でると、キリンは俺の腕に顔を押しつけてくる。顎の下をかいてやると、気持ち良さそうにぐるぐる鳴いた。 「舐めて、もっと…… 」

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