1 / 6

第1話

高校生甘キュン日常系:彼氏は幼馴染 「オレがいるんだから、これは読む必要がないよね」  遥の目の前にいる咲良は、手紙を細かくちぎりゴミ箱へ落とす。  ひらりひらりと落ちていく、小さな紙は音もたてずに目の前から消えた。  咲良は遥の幼馴染で、いろいろあったけれど……今は恋人同士。  そう考えるのなら、ラブレターを捨てる気持ちはよくわかる。  理解できる。  わざわざ遥の手紙を読むふりをして便せんを出した。  けれど読みもしないで、封筒と便せんを重ねて細かくちぎったのだ。  満面の笑みで手紙を破った。 「あのな、それの手紙は僕に来たんだけど? 返事くらいはさせてくれよ」  ため息をつくけれど、すでに破かれた手紙は元に戻らない。  ゴミ箱を覗き込んでも、いまさら読めないだろう。 「断るつもりだったんだから、そんなに怒るなよ」 「遥が断るなら、そもそも手紙を読む必要はなかっただろう?」  確かに断るのはとても面倒だ。  相手が女性なら、目の前で泣き出す。  男性なら、咲良とともに断りに行かないと身の危険がある。 「遥はもっと危機感を持った方がいい。断ったときに襲われそうになったのは何度あったか覚えているか?」 「……それは」 「だったら、手紙はオレに預けたと言えばいい」 「男女問わずに?」 「男女問わずに」  耳が痛いだけに遥は、強く言えない。  遥かの細い腕で抵抗するのは、かなり無理がある。  咲良が駆けつけてくれたから助かった。  そのあとからは、男女問わずに咲良について来てもらっていた。 「遥は手紙を断ることを覚えろ」 「断るにも、手紙を押し付けて逃げるんだ……オレだって頑張っているさ」 「とりあえず、この手紙はオレが預かったと言っておけばいい」 「いつもありがとう」  助かっているのは本当なので、そこは素直に感謝を伝えた。  自慢じゃないけど、咲良は遥の笑顔に弱い。  ありがとう、ごめんね。これに笑顔を付けるだけで、大体は許してくれる。  *  小学生のときまでは、いつも一緒だった咲良。  中学生の時に、親の転勤で手が届かない人になった。  失って知る「寂しい」という感情。手紙や電話なんかいらない。  咲良がそばにして欲しかった。 (その感情は友情であり、愛情ではなかったはずなのに)  再び高校で再開できたとき、それが奇跡ではなく咲良自身の努力の結果だった。  再開できた喜びと共に、心の中に何かが沸き上がってきたのを、今でもよく覚えている。  未成年が親を説得するのは、不可能だろう。  それでも遥のもとへ帰って来てくれた。  そして告白されるままに、咲良と付き合うことになる。 (ちょっと考えなしだったけどさ……)  男同士で体を求められたときは、本気で動揺した。  恋人ならそういう行為があると気づいたのが、この時だった。  快楽を覚えるとともに、心も情に流されていく。  そんな日々を過ごしてきて、二年がたつ。  流された関係でも、今は幸せだと遥は思う。   穏やかな日常と、ちょっとしたトラブル。  恋人ならいろんなことがある。それは咲良も遥も同じだろう。 * 「遥、そろそろ手紙を頑張って断って欲しいな」 「なに、急にどうしたの?」 「いつもオレばかりが、嫉妬しているみたい」 「え……咲良が嫉妬? 僕に嫉妬するの?」 「遥はオレのことをどう見ているんだよ。オレだってただの男なんだ」  それは見れば分かる。  咲良と再会して一番驚いたのは、遥より背が高く男らしかったところだ。 「男なのは理解してるよ。咲良は僕より背が大きいし」 「――――今夜はオレの部屋に、泊りにおいで」  咲良の笑顔とは裏腹に、遥の背中は震える。 (なにか、怒らせた……?)  怒らせて部屋に呼び出されるのは、これで何度目だろうと、遥は遠くを見つめた。  言葉は難しい。  多すぎても、少なすぎても、誤解を招く。 (怒った顔も好きだから、困るんだ)  結局、遙は咲良自身が好きで仕方ない。  叱るときも怒るときも、甘やかされるときも。  とはいえ、こんなときのお誘いは……経験上あまり良い記憶がない。    

ともだちにシェアしよう!