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第1話
「はるちゃんは可愛いわねー。お姫様みたいよ」
「えへへ、ありがとう! おとなりのまーくんと遊んでくるね!」
「はいはい、いってらっしゃい。暗くなるまでに帰るのよ?」
「はーい!」
当時の俺は母親が言う、可愛いだの、似合ってるだのと言う言葉を鵜呑みにして、よく母親好みのフリフリワンピースを着せられて過ごしていた。父親の方も母親が俺を着飾るのを、たまにの事だし似合ってるからいいかーーと静観していたし、そもそも、俺はそれが変な事だなんて思ってなかった。
それなら周りが指摘してくれればいいのに――と思ったが、俺は母親似で、小柄だったのもあって、周りからは女の子だと思われていたらしい。確かに、昔の写真を見たら勘違いしても仕方ないくらい線が細かった。
だから、周りは何も言わなかったし、その所為で、ワンピースが女の子の服だなんて思ってなかった。
名前が遥 なのもよくなかった。女でも男でも通ってしまうから。
お陰で、黒歴史を量産してしまった。
「おおきくなったら、ぼくのおよめさんになってね! はるちゃん。そうしたら、ずっといっしょにいれるんだよ」
「そうなの!? じゃあ、はる、まーくんのおよめさんになる!」
「やくそくだよ!」
「うん! やくそく!」
こんなやりとりなんて特に消したい過去過ぎる。別にまーくんが嫌な奴だったとか、そんなんじゃなくて、ただ、この流れだとどう考えても、まーくんが俺を女の子だって勘違いしてるだろうな――って事が嫌なだけだ。
実際、まーくんとの思い出はいい思い出の方が多いし、本当、いつも一緒で、俺は友達としてまーくんが大好きだったんだ。そんなまーくんとずっと居れるなら――とお嫁さん宣言をした。お嫁さんがどう言うものかと言うのも知らずに。
後から思えば、まーくんは自分がもうすぐ引っ越ししなきゃいけない事を知ってて、俺と一緒にいたいと思ってくれた結果なんだろうな。
当然、そんな子供同士の約束で、引っ越しの運命が変わる訳もなく、それ以来、まーくんとは会っていない。
まーくんが居なくなった後は俺は凄く泣いた。それはもう盛大に。
寂しがって塞ぎ込んだ俺を見かねて、父さんと母さんは俺を保育園に入れてくれた。本当はもう少し待って、次の年の四月から幼稚園に入れるつもりだったらしいんだけど、早く新しい友達を作った方が寂しさも紛れるだろうって。
そして、その頃から、俺は、母さんに女物の服を着せられる事はなくなった。流石に、保育園に着せて行くには向かない服装だと自重してくれたんだろう。そう言う意味では、まーくんとの別れはいい変化をもたらしてくれたんだよな。
「もう! 聞いてるの!? はるちゃんってば」
「聞いてる聞いてる」
何度言っても直してくれないちゃん付けの呼び方をスルーして、おざなりに答えた。元はと言えば母さんの一言から、こんな昔の事を思い出したんだから。後半は危ういけど、要件としては、認識してる。
そんな母さんの一言とは、お隣さんが戻ってきたのよ! って話だった。
「結婚の約束までしたまーくんよ!? はるちゃん嬉しくないの!?」
「……母さん、何度も言うけど、俺が男だって事分かってるか?」
「勿論、分かってるに決まってるじゃない」
なら、何をどうしたら結婚なんて言葉が出てくるんだ……
「でも、はるちゃんはウエディングドレス着ても似合うと思うわよ?」
「いや、それ嬉しくないから」
こう言うやり取りをする度に思うけど、こんな母親を持って、グレなかった俺を褒めて欲しい。そりゃ、ちょっとばかり髪は染めてるし、ピアスも開けてるけど、これはお洒落の範囲だ。
「似合えば性別なんて気にしなくていいのに」
「 気にするに決まってるから。さて、そろそろ行かないと遅刻するから、話は帰ってきてからにしてくれ」
「あら? もうそんな時間? 行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はいはい。行ってくる」
「おはよー! はる!」
「はよ。朝からテンション高いな」
「だって、転校生が来るんだもん! これにテンション上がらずにいられましょうか!」
「お、おおう……」
そう言うと、ルンルンと鼻歌でも歌いそうな勢いで教室を出て行った。何でこう俺の周りにはテンションの高い女ばっかりなんだ。うちの母親含め……
「なあ、智也。何で渚は転校生が来るってだけでこんなにテンション上がってんの?」
俺の後ろの席ででさっきのハイテンション女――もとい、斎藤 渚 の彼氏である|名波 智也 に声を掛けた。
「転校生はイケメンに決まってるんだそーで、目の保養を心待ちにしてるんだ」
「なんだそれ。で? 彼氏としてはその彼女の発言に何て答えた訳?」
「別に何も」
「いいのか?」
それは浮気発言という奴なのでは?
「何で? 目の保養だろ? それくらい好きにしたらいーじゃん。俺だってアイドル見て可愛いーって思う事くらいあるし」
「そういうもんか?」
「そーいうもんだ。そもそも、転校生は女かもしれないし、男でも不細工かもしれないだろ」
「え? 男だって情報を掴んで騒いでんじゃないのか?」
てっきりそうだと思ってたんだが。後は顔の出来次第。って感じで。
「違う違う。大体さ、渚のあれに毎回嫉妬してたら、俺、遥の友達やってられねーじゃん。遥も渚の目の保養要員の一人なのに」
「は?」
何か今、聞いちゃいけない発言があった気がする。
「だーかーらー、遥がイケメンだって話!」
「……これ、素直に喜んでいいのか?」
「いーじゃん。正真正銘、容姿褒めてんだから。渚のお眼鏡に叶うの結構難しいんだぞ」
それでも目の保養要員って何も嬉しくない。
「もう、何でもいいや……渚と仲良くな」
「めっちゃ仲良いからご心配なく」
「ああ、うん、知ってる」
「ほら、席に着けー」
チャイムの後すぐに入ってきた担任の声に、まだ席に着いていなかった奴が慌てて座る。
「今日は転校生を紹介する。葛原、入れ」
「今日からこのクラスに編入する事になりました、葛原 拓磨 です」
担任に促されて入って来たその人物はそう自己紹介をした。背は高いし、顔はイケメンだった。渚の予知能力すげー……
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