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第2話

「なぁ、渚。あれに混じらなくていいのか?」  人の席の後ろでまだ一限が終わった所だというのに、お昼をどこで食べるかを智也と相談してる渚に、女子が群がってる場所を指差して問いかける。その中心には言わずもがな、転校生の葛原の席がある。 「ん? いーのいーの! あたしは眺めるだけで満足なタイプだから。そんな暇があったら、智也とイチャイチャするんだもーん」 「左様ですか」  溜息をつきながらそう気の無い返事をして、再び葛原の方へと視線を向けた。群がってる人の所為で本人の姿はほとんど見えないが。 「イケメンってのは得なのか損なのかわかんないな」  転校初日から葛原が囲まれてるのは、転校生って事よりも、背が高くて顔がいいからって事の方が大きいだろうし。もし、これがむさい奴ならそこまで群がられる事はないはず。  ハブられるよりはいいけど、あのハイテンションだと、しんどいよな――とそこから聞こえてくる声にそう思った。 「何を言ってんだ。遥。お前もイケメン顔だろ。葛原とはタイプが違うけど」 「そうだよ! お姉様キラーの癖に!」 「でも俺、同級生にはモテないから」  俺の顔は、何だろ? 庇護欲でもそそるのか、歳上の女の人からはそれなりに人気がある。童貞も中学の時に大学生のお姉さんに貰われた。 「それでも適度に遊んでる癖に贅沢言うなよなー」 「人聞きの悪い事言うな」  俺は、節度を守ったお付き合いをしてるだけだ。お互いに束縛する訳でもなく、都合が合えば遊ぶそんな関係なだけ。智也に迷惑を掛けた訳でもないのに、それに対して嫌味を言われなきゃいけないんだ。 「そうだよ。はるがお姉様方と火遊びしてるのはいいとして、智也のその言い方だと、あたしじゃ不満って言ってるみたいに聞こえるけど?」  俺の事は良いのかよ。ってか、火遊びに進化したんだけど…… 「そ、そんな訳ないだろ!? 俺は渚がいればいーし!」  渚にも一言くらい文句を言ってやろうと思ったけど、俺が口を開くよりも早く、智也が渚に弁解を始めてしまったから、辞めた――と言うか毒気を抜かれた。完全に智也って渚の尻に敷かれてるよな。  そもそも、俺にそんな嫌味を言わなくたって、智也だってモテない訳ではない。バレー部でセッターをしてる智也は背も高いし、当然運動神経もいい。顔だって、悪くないんだから。  渚だって可愛い顔をしてるから、黙ってればモテるんだけどなー。俺のタイプじゃないけど。 「じゃーな、遥」 「バイバイ、また明日ね!」 「おう、部活頑張れよ」  あの後痴話喧嘩してたけど、次の休み時間にはまた仲よろしくしてたし、当然、当初相談してた様に仲良く昼飯も食って、今も二人で部活に旅立つ智也と渚に軽く手を上げて答えて、俺は帰り支度をした。今日も智也はいつも通り張り切って部活をするんだろう。渚はバレー部でマネージャーをしてるから。部活が縁で付き合いだした二人だし。  たしか渚が智也のプレー姿に惚れて告白したのが始まりだと言ってた。って事は渚のアプローチに智也が落ちたって事だよな? 惚れた弱みって言葉は何処に行った? 完全に力関係は渚のが上だぞ。  まぁ、二人っきりの時は知らないけど。 「あ、天道(てんどう)くん帰るの? よかったら、あたし達今からカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」  教室を出ようとした所で、後ろから声を掛けられた。  えーっと……誰だっけ? 多分クラスメイトなんだろうけど。  基本的に関係ない人間に興味がなくて、クラスメイトであっても、顔と名前が一致しない奴が多い。何かきっかけがあれば覚えるけど。今日の葛原みたいに。 「あー、いいや。予定あるから」  本当はそんなものないけど、予定気心知れた奴じゃないと疲れるし。 「そっか。残念」  口ではそう言いながらも、全然残念そうじゃなかったそいつが、今度は葛原に声を掛けに行くのを背後で聴きながら、今度こそ教室を出た。 「……天道だっけ? お前もこっちの方なの?」 「……ん?」  声でそうだろうとは思ってたけど、振り返れば案の定、葛原がいた。 「何で俺の名前……」  ――と言うか、女子達にカラオケ誘われてなかったか? 何でここにいるんだ。 「教室で声掛けられてだだろ? 聞こえてたから、名前知った。あってるよな?」 「あー……うん。あってる。天道 遥。よろしく」 「こちらこそよろしく。朝、教室で自己紹介したから知ってると思うけど、葛原 琢磨だ」  葛原は笑みを浮かべて頷きながらそう言った。イケメンはやっぱり笑顔もイケメンだった。 「で、最初の質問だけど……方向一緒なら途中まで一緒に帰らないか?」  そう問われれば、断る理由もなく頷いた。何処まで同じ方向なのかは知らないけど。 「所で、カラオケ行かなくてよかったのか?」  自然と隣に並んで再び歩き始めた所で、声を掛けた。 「女子のテンションについて行ける気がしなくて断った。俺、ここに来るまで通ってた高校も中学も男子校だったから、慣れてなくてさ。女子って怖いな」 「女子が肉食系全開で迫って来るのは、葛原の顔の所為だと思うけど」  あと身長。これは、俺のコンプレックスを刺激しそうだから、口には出さないでおいた。別に俺の身長はそこまで低くないはずなのに、今隣にいる葛原も、いつもそばにいる智也も身長が高いから、俺が低く見えてしまうんだ。 「そう言うもんなのか」 「そう言うもんだよ」 「葛原、こっちで大丈夫なのか? 遠回りとかになったりしてないか?」  今日初対面の相手とこれと言って重要な話がある訳もなく、他愛ない話をしながら、帰り道を歩いてたんだが……何の配慮もなく、自宅への帰り道を通ってしまった。そして、もうすぐ俺の家に着いてしまう。話の腰を折りたくなくて言いだせてないとかじゃないよな? その事に気付いて今更、問いかけた。 「いや、俺の家この辺だからと言うか、もう見えてきてる……ほら、そこの屋根が青い家だ」  そう言って葛原が指差したのは俺の家の隣の家。  え……もしかして…… 「――まーくん、なのか……?」 「え……? その呼び方……ハルちゃん……?」

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