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第28話
後悔しても遅い。それでもこの身体の軽さは、前回とまったく一緒だった。
「・・・・・・どうもありがとうございました」
がっくりと肩を落としながら、希は着替えをするためマッサージ台から下りた。
「おい」
振り返れば、とっくに部屋を出ていると思われた奎吾がじっと希を見ていた。
「あれから弟とはどうなんだ」
「えっ。明?」
希の驚きに、奎吾が不機嫌そうな顔になる。奎吾自身、なんでそんなことを口にしてしまったのだろうと戸惑っているようだ。
むすっと口元を引き締める奎吾に、希は意外に思った。
「まだ口は利いてくれない。相当怒っているみたいだ。いや、それだけ俺が明をがっかりさせたのかな」
「どういう意味だ?」
「ん?」
希が首をかしげると、奎吾は苦虫を噛み潰したような、なんとも微妙な表情を浮かべていた。まるで何か言いたいことがあるのを堪えているようだ。希はくすりと笑った。なんだか奎吾がかわいく思えたからだ。
案の定、奎吾はかすかに顔をしかめた。むっとしたように、何だと問われる。
「ごめん。別にあんたをバカにしたわけじゃないんだ。ただ、あんたからそんなことを訊かれるなんて思ってもみなかったからさ」
希の言葉に、奎吾はハッとした顔をした。希は、ふっと微笑んだ。
「明は、たぶん俺に裏切られたと感じているんだと思う。俺がそう思わせちゃったんだ。いますぐには難しいかもしれないけど、ゆっくりと話し合っていくつもりだ」
希の言葉に、奎吾は何を考えているのかわからない不思議な表情を浮かべた。やがてふいと顔をそらすと、そのまま部屋を出ていってしまった。希はそっと息を吐き出した。
信じてもらえるわけないか。そりゃそうか・・・・・・。
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