30 / 66
第30話
けれど、表情から頼りなさが消えた奎吾は、初めて会ったときに抱いた印象そのままに、文句なしに色男なのだった。多少見つめられておかしな気持ちになってもおかしくない。そうだ、なんだかちょっぴりとだけ心臓が変なふうに鼓動しているけれど、俺はおかしくなんかない。
そう自分を納得させながらも、希がそわそわと視線を揺らしていると、ふいに奎吾が「あ」と声を上げた。
「え? ・・・・・・あっ!」
奎吾の視線の先を追って、希は声を上げた。見れば、いつの間にかきていたエレベーターは閉じて、無人のまま下がっている。
「ああ~っ!」
慌てて呼び出しのスイッチを押すが、手遅れだ。希は再びエレベーターが上がってくるのを待ちながら、奎吾はどうして部屋に戻らないのだろうと不思議に思っていた。
しばらくして、エレベーターが戻ってきた。
「それじゃあ」
声をかけて、希はエレベーターに乗り込む。ドアが閉まる直前、再びドアが開いた。
「え?」
奎吾がエレベーターに手を差し込んで、ドアを押さえている。
「あんた、あした何か用事はあるか?」
「や・・・・・・。別に何もないけど・・・・・・」
「だったら飲みにいかないか」
「え? なんでっ?」
びっくりして間抜けな声をあげた希に、奎吾はむっとしたように顔をしかめた。
「嫌ならいい」
「嫌じゃない! 嫌じゃないよ!」
嫌じゃないけど・・・・・・。
じわっと頬が熱くなる。そのまま背を向けた奎吾を、希はドキドキしながら呼び止めた。
ともだちにシェアしよう!