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第31話

 週末の新宿駅は多くの人で混んでいた。指定された待ち合わせ場所に着いた希は、きょろきょろと辺りを見回した。  ひょっとしたら揶揄(から)かわれたのか。  そんな思いがふっと頭をよぎり、希は頭を振った。  初めて会った日、ゲイ差別的なことを口にしてしまった希に対して、奎吾ははっきりと不快感を表していた。けれど、前回会ったときに、希に対する奎吾の気持ちがほんの少しだけ緩和されたように感じた。あれは希の勘違いだったのだろうか。  次々と待ち合わせ相手が現れる人々を眺めながら、希はそれだったら仕方ないと、諦めにも似た思いを抱いた。  約束の時間から十五分が経過しても、奎吾は現れなかった。携帯の番号は聞いていなかった。もちろんメールアドレスも交換していない。だから希は指定されたこの場所で奎吾を待つことしかできない。今夜は雪が降りそうな寒さだ。吐いた息が闇に吸い込まれる。  あともう少し。もう少しだけ待ってみよう。  希はコートのポケットに両手を入れると、マフラーに顔を埋めた。 「遅くなった!」  そのとき、コートの腕をぎゅっとつかまれた。急いできたのだろうか、見れば奎吾の額にはうっすらと汗が滲んでいる。その髪はわずかに乱れていた。

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