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第34話
いただきますと手を合わせて希が料理を食べるのを、奎吾は何も言わずにじっと見ている。奎吾の言うとおり、店は料理もおいしかった。気がつけば腹は満ちて、ほどよくアルコールも回り、希はすっかり楽しい気分になっていた。
「・・・・・・お前、若いときに父親を亡くしたと言っていたが、きっといい育てられ方をしたんだな」
希は奎吾に顔を向けた。言われている意味がわからない。
「・・・・・・ひょっとしてバカにしている?」
それで疑問を口にすると、奎吾は顔をしかめ、何でだよ、と言った。
「さっき、飯を食う前、自然に手を合わせただろう。お前の歳で珍しくないか」
「ああ、それは俺が父親の代わりみたいなものだったから・・・・・・」
本当にこんな話が聞きたいのだろうか。希が奎吾を見れば、続けろ合図された。
「ほら、うちは父親が早くに亡くなったって言っただろ? そのとき弟はまだ三歳でさ、父親の死を理解できなかったんだよ。母親は看護師をしていて、うちには俺とまだ小さい弟しかいなかった。それでお手本にならなきゃとしているうちに癖になっちゃってさ」
のぞちゃん、眠れない。のぞちゃんもいなくなっちゃったらどうしようと、毎晩眠るたびにおねしょをする明に、高校生だった希は困惑した。父親を亡くしたばかりのショックと、いままで当然のように目の前にあったものが、ある日突然崩れ落ちるように変わってしまったのだ。
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